人口学研究
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シンポジウム
女性の役割と人口問題
河野 稠果
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1995 年 18 巻 p. 45-52

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抄録
1994年の日本人口学会シンポジウムは「地球人口を100億人以下に抑えこめるか」であった。これに対する答は「イエス」であり「ノー」である。1994年の国連世界人口推計によれば,途上地域の出生率がよほど劇的に低下しない限り,地球人口を100億人以下にすることは難しそうである。答えが「イエス」になるためには,女性の役割の拡大,地位の向上,総じて女性のエンパワーメントしかない。1994年9月にカイロで開催された国際人口・開発会議のキーワードはそれであり,女性の完全な協力と参加による人口活動等,特に家族計画プログラムの円滑な実施こそが,世界人口の安定化をもたらすとの合意が行われた。女性のエンパワーメントの大きな挺子はりプロダクティブ・ライツとヘルスの確立と推進である。相当数の途上国では,出生率抑制政策とそれに関連する家族政策普及活動は上意下達主義で,行政の末端の町村レベルでは往々にしてノルマの達成のために,女性の選択,健康,権利を無視して行われていた。これでは家族計画普及活動は強制になるし,長い目で見るとその効果は疑しくなる。また,大多数の途上国の家族では伝統的家父長制が支配しているが,そのような状況では若い嫁が一人前の地位を獲得できる唯一の手段は,多くの子供をを次々と産むことだけである。本当はもう子供は産みたくないのに,家長や夫の要求で出産を続け,みすみす母体の健康を損っているケースが多い。リプロ・ヘルスとライツの考え方が浸透すれば,このような望まれざる出産は減り,出生率低下は加速されることになろう。世界にはもう子供は欲しくないと思っているが,家族計画の知識がなく,薬剤・器具が不足しているために子供を産み続けているカップルが1億以上あるという。リプロ・ヘルスの運動が徹底すればこのようなアンメット・ニーズは解消し,途上国の出生率は予想以上に低下するであろうと期待されている。
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© 1995 日本人口学会
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