人口学研究
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論文
人口問題への生存科学的接近
江見 康一
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1998 年 22 巻 p. 1-7

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抄録

人口問題はマルサスの人口論以来,人口増加対経済の生産力との関係についての経済問題が中心であったが,1970年代の資源・環境問題と,平均寿命の伸長による人口構造の変化を契機として,人口研究の新しい課題への取組みが必要になった。前者については,従来の経済成長路線の転換をせまられることになるが,それへの対応は一国のみならず,地球的規模での環境会議や人口会議による国際協力が求められる。後者については,高齢化が財政需要をふやす一方,少子化に伴う労働力不足と有効需要減によって,経済成長を前提にした従来の産業構造と社会システムの改革が必要となる。そこで人口問題は,人口と経済との関係を人間と自然との共生関係を基礎にした新しい関係に置き換え,ミクロ的には人間生命の再生産として捉えると同時に,マクロ的には21世紀初頭から生じる人口減少への転換を,長期の人口波動の1つの局面と見なし,ゼロ成長社会へ対応する形の社会経済システムへの移行を可能とする具体的プログラムの提示が急がれる。これらミクロとマクロをつないで,人類の新しい生存秩序を創造する生存科学の必要を提案したい。

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© 1998 日本人口学会
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