人口学研究
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論文
宗門改帳における出生と乳児死亡の過少登録 : 日本歴史人口学の残された課題
木下 太志
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1999 年 25 巻 p. 27-39

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抄録

本稿は,日本の歴史人口学において,長い間未解決であった問題を取り扱った。それは,宗門改帳における出生の過少登録に関する問題である。この問題は宗門改帳から乳児死亡率だけではなく,出生率をも正確に推計することを妨げており,日本の歴史人口学の発展のネックとなっていた。この問題を解決するため,本稿では,乳児死亡率と出生率を別々に扱い,前半部分で宗門改帳の記録から正確な乳児死亡率を推計する方法について検討し,後半部分で宗門改帳における出生の過少登録を中心に論じた。前半部分では,宗門改帳から得られる情報だけではなく,明治・大正期の人口動態統計も使い,宗門改帳から得られる乳児死亡に関する指標を「初年死亡率」と定義して,それと乳児死亡率との関係を見つけ出し,この関係を乳児死亡率の推計のために使った。後半部分では,マイクロシミュレーションを利用した。その結果,出生の過少登録のレベルは乳児死亡率のレベルと密接に関係しており,徳川時代の乳児死亡率のレベルでは,宗門改帳に記録された出生は,実際の出生よりも14パーセントから18パーセント程度過少に,日本国内の地域性を考え,少し安全側に立っても,12パーセントから18パーセント程度過少に記録されている可能性が高いことがわかった。近年の歴史人口学の研究では,このレベルを20パーセントと仮定することが多かったが,本稿の結果からすると,この仮定は過大に見積もられているという結論が導き出された。本稿では,宗門改帳の記録日によって,出生の過少登録のレベルが大きく影響されるのかどうかという問題についても検証した。この問題に対する答えは否定的なもので,宗門改帳の記録日の違いは,懸念されるほどには出生率の推計に影響を与えないことがわかった。最後に,シミュレーションを使って,異なるサイズの小集団における出生率の分散を検討した。この結果は,小集団における出生率の分散に関するひとつの指標となり,断片的な宗門改帳を扱う際の助けとなるであろう。

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© 1999 日本人口学会
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