人口学研究
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研究ノート
札幌市の配偶関係別純移動率1995年-2000年 : 推計モデルと国勢調査再集計の比較
原 俊彦
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2013 年 49 巻 p. 31-46

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抄録

日本の主要な人口移動統計としては,各年の住民基本台帳人口移動報告と10年ごとの国勢調査報告人口移動集計があるが,いずれも配偶関係別には集計していない。このため配偶関係(有配偶,未婚,離別,死別)ごとの移動率の相違や,それが地域の人口構造に与える影響については殆ど未解明である。本稿では,札幌市をケーススタディに,1995-2000年のモデル推計値(人口動態統計の男女初婚件数,再婚件数,離婚件数を各歳コーホート別に積算し5歳階級別に累積件数を求め推計)と,2000年国勢調査の人口移動集計の個票から再集計して得た実測値と,この値をもとにセンサス間の配偶関係異動を補整した補整値を比較し,推計の確度と札幌市の配偶関係別純移動率の特徴について検討した。主な知見は以下の通り。(1)未婚は男女とも進学年齢まで転入超過,大学卒業・就職期に急激な転出超過を示し,以降は転出超過から純移動率0に向かう基本的傾向がある。未婚者が集まる街というイメージは移動傾向ではなく,定住人口の高い未婚割合を反映したものであることが補整値でも確認された。(2)有配偶は男女ともほぼ全年齢で転入超過で,特に引退年齢以降で転入超過がさらに強まるという推計モデルの知見は支持されたが,男子の30〜34から55〜59までと,女子の25〜29→35〜39の補整値は転出超過であり,家族形成期の有配偶人口の流出はないとする推計モデルの結果は確認できない。(3)死別は高齢を除き男女とも0に近いが,男子が75歳以上,女子は65歳以上から上昇し高齢ほど転入超過傾向が強まる。札幌市の高齢単独世帯の増加には死別高齢者の転入超過が影響している可能性が示された。(4)離別は男女ともほぼ全年齢で転出超過という推計モデルの知見は補整値では確認できない。このため高い離別割合の背景として示唆されて来た離別者の転入超過傾向(福祉サービスが誘引となる「出戻り」や「集中」)も補整値では否定できない。

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© 2013 日本人口学会
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