人口学研究
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育児短時間の義務化が第1子出産と就業継続,出産意欲に与える影響 : 法改正を自然実験とした実証分析
永瀬 伸子
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2014 年 50 巻 p. 29-53

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抄録

本稿は短時間オプションの義務化(3歳未満児のいる雇用者に1日原則6時間勤務の選択肢を提供すること)が,第1子出産,無子者の出産意欲,および第1子出産後の就業継続に与える効果を厚生労働省『21世紀成年者縦断調査』2002-2010を用いて計測した。法施行が101人以上企業に先行し義務化されたことを利用し,これ未満の企業勤務者との差の変化を測定したところ,政策実施企業において,法施行直後に,線形確率固定効果モデルを用いた推計において,第1子出産ハザードと出産意欲の上昇がそれぞれ有意に見出された。正社員の時間の自由度を拡大する政策は,大卒女性を中心に第1子出産確率を高め,無子者の出産意欲を高める効果を持つことが明らかとなった。他方,第1子出産後の就業継続のプロビット分析からは短時間オプションの有意な効果はみられなかったが,2007年以降就業継続確率の有意な上昇が見出された。2007年と2010年に育児休業給付が拡充されていることが背景にあるだろう。ただしこうした政策の対象となる正社員は,出産年齢にある無配偶女性の半数をしめるに過ぎない。非正規雇用者に対する保護の拡充がなされない限り保護の厚い正社員の女性の採用が削減されることが懸念される。さらに35-36歳の正社員女性や契約社員女性の無子割合は5割を超えているが,出産意欲は比較的高い。出産意欲が実現できる非正規雇用者を含めた雇用環境や保育環境の一層の整備が望まれる。

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© 2014 日本人口学会
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