本研究は「毒性物質に対する放射線照射効果」の観察に属するものであり,従来この方面に関する報告は.食品や包装材料が照射により生成する毒性物質に関する報告に比べて極めて少ない。この方面に関する研究としては,細菌が産生する毒素に関するものが多く,たとえば,ボトリヌス菌の毒素や,葡萄状球菌が産生する毒素に関するものがある.私共も,河豚が産生する毒素テトロドトキシンに照射を試みたことがあるが,含毒河豚そのものを照射しないで,抽出されたテトロドトキシンを使用し,これをマウスに腹腔注射して24時間以内に死亡する量をγ線(Co-60)で50万rad照射すると60%の死亡をみ,200万rad照射すると死亡は零になることを観察したが,かなり放射線抵抗は強いものであった。その他のものとしてはモルヒネ・エメチン,ストリキニン等の毒性アルカロイドに照射を試みた例や,発癌物質の3,4-ベンツピレンに照射を試みた例が報告されている程度である。
私共は,わが国の水資源は比較的豊富であるに拘らず,都市の急激な膨張と下水道施設の普及の遅延と公衆道徳実践の不足とが産業優先政策と相俟って,都市周辺の水域は日々汚染の度を加え,上下水処理は益々困難になってきている情勢から,これらの水に混入してくる化学的汚染物を一種の毒性物質とみなし,これらの放射線照射による変化が水処理の点で利用できないかと考えて,そのapproachを行なってみることにした。換言すれば,われわれが生存上不可欠な経口物質として最も重要な飲料としての水の浄化処理に放射線照射が利用できるかどうかの試みを始めた。
現在取水口から浄水場へ導入する水には微量ながらいろんな有害物質が含まれているが,これを種々の処理で分解あるいは除去して市民に供給しているわけである。本抄録に記載するのは,これらの多くの化学物質のうち2種に限定する。その1つは,phenolであり,他の1つはABSである。前者は動物に対する発癌性が認められており,また浄水の最終処理である塩素注入によって塩素と結合して微量でもその匂いと味によって水を不味くするクロロフェノールを生ずる。後者は化学的にも生物学的にも安定な界面活性剤で,洗剤として使用後も残存し,地下水中に入って井水を泡立たせ,あるいは河川下水に混入して上下水処理を困難にしている。これらの現在の原水中の濃度は,たとえば淀川の取水口で前者が約0.012ppm,後者が約0.1ppm位になることが報告されている。(水質基準としては前者が0.005ppmと設定されており,後者は近く0.5ppmと決められる予定である。)