抄録
卵子の細胞質には卵子形成の過程でつくられた母性タンパク質の多くが蓄積している。ところが、受精直後これらのほとんどは分解され、受精卵ゲノムに由来するタンパク質に置き換わる。マウスでは受精後の4,8細胞期に劇的にタンパク質合成パターンが変化する。このことは受精直後のタンパク質のターンオーバーを示しており大規模なタンパク質分解系の活性化が想定される。オートファジーはリソソームを分解の場とする細胞質成分の大規模な分解系である。前回大会において、我々はマウスの受精卵でオートファジーが活発に誘導されることを報告した。オートファゴソームの形成に必須なAtg5を卵子特異的に欠損した卵特異的オートファジー欠損マウスでは、卵子形成や受精は正常に起こるものの、受精直後の初期胚発生が4,8細胞期で停止することを明らかにした。さらに、発生停止を起こした受精卵ではタンパク質合成が低下していることも分かった。これらの結果から、オートファジーの誘導によって母性タンパク質は大規模に分解され、その分解産物であるアミノ酸は新規タンパク質合成のための材料となっていると考えられる。一方、活発に誘導されるオートファジーとは別に、低いレベルでおこる恒常的なオートファジーは細胞内で不要になった細胞内成分の除去(細胞内浄化)のために必要である。この恒常的なオートファジー活性は加齢に伴う老化によって低下することが明らかとなっている。今回、我々は卵特異的オートファジー欠損マウスでは加齢に伴い受精率が顕著に低下することを見いだした。比較に用いた同週齢の雌マウスでは受精率の低下は観察されなかった。このことは、受精直後のオートファジーの役割とは別に受精前の卵子におけるオートファジーの新たな生理機能を示唆している。これまで加齢に伴う染色体異常や酸化ストレスによって卵子の品質が低下することは知られているが、卵子の品質を維持する分子メカニズムは不明である。本大会では最近明らかとなったオートファジーの新たな役割ついて報告する。