抄録
【目的】ショウジョウバエにおいて生殖細胞の形成に関与していることが考えられているvasaや、マウスの生殖細胞形成の過程である減数分裂に関与しRNA結合ドメインをもつdazlなど、いくつかの動物種において生殖細胞で特異的に発現する因子が発見されている。また、ニワトリも生殖細胞の形成に関与すると考えられるCVHやCDHといった遺伝子を持つことが明らかとなった。比較発生学的観点から、生殖細胞に特異的に発現する遺伝子の機能には興味が持たれるが、マウスやラットなど他の動物種に比べると鳥類では生殖に関連する知見は極めて少ない。そこで本研究では、DAZLとCVHの抗体を用いて、DAZLの細胞内局在を細胞局在が認められているCVHと比較検討した。【方法】ニワトリ胚性腺のcDNAプールからCVHおよびdazlのcDNAを単離し、その情報をもとにしてCVHはその全長から、dazlはC端側の170アミノ酸残基からそれぞれ大腸菌を用いて作製した組換えタンパク質を抗原として、CVHはラットに、DAZLはウサギに免疫した。それぞれ麻酔下で全採血を行い、血清を分離した後、DAZL抗体はさらにアフィニティーカラムで精製した。精製抗体を用いて蛍光免疫組織化学を行った。【結果】CVHとDAZLの抗体を用いて胚日齢7日、15日、ならびに1ヶ月齢の精巣および卵巣をサンプルとした二重免疫染色を行った結果、胚日齢15日までの性腺では、両性腺ともにCVHとDAZLの発現が同一細胞の細胞質で確認されたが、すべての生殖細胞がすでに減数分裂期に入っている1ヶ月齢の卵巣ではDAZLの発現が完全に消失していた。一方、1ヶ月齢の卵巣では、CVHが発現している卵母細胞と発現のない細胞が観察された。1ヶ月齢の精巣ではDAZLが発現している細胞と発現のない細胞の両方が見られたが、雄性生殖細胞ではいずれもCVHの発現が認められた。以上、第一次減数分裂期を境にして、DAZLとCVHの分布に相違があることから、DAZLとCVHの機能には時期特異性が考えられる。