抄録
【目的】近年、iPS細胞の樹立が報告されたことで、再生医療への道が大きく開かれた上、創薬や病態解明への応用に向けた研究が精力的に進められている。この技術を発生工学に応用する場合、マウスES細胞様のジャームライントランスミッションするiPS細胞を樹立する必要があるが、マウス以外の種においては未だ樹立されていない。本研究においては、ブタの細胞をモデルとして用い、iPS細胞を樹立し、培養条件を最適化するための系の作出を試みた。【方法】ブタの胎仔もしくは成体組織由来の線維芽細胞に、Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycの4遺伝子をレトロウイルスで導入し、SNLフィーダー細胞上に継代した後、血清を含まないヒトES細胞培地もしくはマウスES細胞培地で培養を行い、出現したES細胞様のコロニーをピックアップした。この際、ピックアップの前後にMek/Erk阻害剤、GSK3阻害剤、Alk5阻害剤を様々な組み合わせで培地中に添加して細胞状態の変化を検証した。樹立されたiPS細胞株は、RT-PCR法、ウェスタンブロッティングおよび免疫蛍光染色により未分化マーカーの発現を調べ、バイサルファイトシークエンス法によりDNAメチル化状態を調べた。また、胚様体形成およびテラトーマ形成により多能性の有無を検証した。【結果および考察】4遺伝子の導入後、特定の培養条件下で細胞培養することにより、ES細胞様の形態を示すブタiPS細胞を樹立できることが明らかとなった。これらの細胞株は、形態のみならず、分子的な要素も、ES細胞様に変化していることが示唆された。しかし、血清や増殖因子・化学的阻害剤を含まない条件ではこのような細胞は得ることができず、4遺伝子の導入のみでは多能性幹細胞の樹立には至らないことも明らかとなった。これらより、本実験で用いた系は、今までES細胞が得ることができなかった様々な動物種の多能性幹細胞株樹立に向け、その培養条件を検討するための実験系として有用であると考えられる。