日本繁殖生物学会 講演要旨集
第104回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-17
会議情報

生殖工学
多能性幹細胞から分化誘導した始原生殖細胞由来の産仔の作製
*林 克彦大田 浩栗本 一基荒牧 伸弥斎藤 通紀
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】始原生殖細胞(PGCs)は,胚発生の初期に体細胞系列より分岐し独自の発生過程をたどる。マウスのPGCsは胎生6日目前後にエピブラストからBMP4シグナルにより分化する。PGCsでは特異的な転写因子群の働きにより体細胞化のプログラムが抑制されると同時に,多能性細胞特異的遺伝子NanogやSox2の再発現が認められる。またその後ゲノムワイドなエピジェネティックリプログラミングがおきる。本研究ではES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を用いて,エピブラストからのPGC分化およびPGCsでのエピジェネティックリプログラミングを体外培養系で再現することを目的として行い,その評価系として体外で分化誘導したPGCs由来の産仔を得ることを試みた。【方法】種々の成長因子存在下でES細胞およびiPS細胞を培養することにより,それらがエピブラスト様細胞に分化する培養条件を検索した。得られたエピブラスト様細胞の遺伝子発現を胚由来のエピブラストと比較した。またこのエピブラスト様細胞のBMP4刺激に応じたPGCsへの分化能を検討した。分化能の評価はPGC特異的な遺伝子StellaおよびBlimp1の発現により行った。得られたStella,Blimp1陽性の細胞について,マウスの精巣に移植することにより精子への発生能を調べた。【結果】培養条件の検討の結果、エピブラスト幹細胞の培養条件下で培養したES細胞やiPS細胞は,遺伝子発現および形態的に胚のエピブラストと類似した細胞に分化することが明らかになった。またこのエピブラスト様細胞はBMP4刺激によりPGCsと思われる細胞に分化した。得られた細胞と胚由来のPGCsの遺伝子発現は類似しており,また胚由来のPGCsで認められるエピジェネティックリプログラミングが得られた細胞においても観察された。マウスの精巣にこれらの細胞を移植した結果,精子形成が認められた。得られた精子を顕微授精することにより健常な新生仔が得られた。本研究から初期のPGC分化を体外で再構築することが可能となり、多能性幹細胞から体外で分化誘導したPGCsは産仔にまでの発生能をもつことが明らかになった。

著者関連情報
© 2011 日本繁殖生物学会
前の記事 次の記事
feedback
Top