抄録
組織特異的にDNAメチル化状態が異なる領域を持つ遺伝子が数多く発見されており,DNAメチル化は組織特異的な遺伝子発現を制御している。また,転写開始点近傍からmRNAとは逆向きに転写されるアンチセンス非コードRNA(ASncRNA)が標的遺伝子特異的にDNAの低メチル化状態を誘導することが報告されている。このことから,ASncRNAを用いたDNAメチル化改変により標的遺伝子の発現を操作し,有用細胞や疾患モデルとなるような異常な細胞を誘導することができると考えられる。本研究では,ブタを用いて肝臓の形成や機能に関わる遺伝子についてDNAメチル化解析および発現解析を行った。DNAメチル化解析にはCombined bisulfite restriction analysis(COBRA法)およびバイサルファイトシークエンス法を用いた。発現解析にはRT-PCRを用いた。COBRA解析の結果,転写開始点近傍が他の組織に比べて肝臓で低メチル化である遺伝子を13個同定した。それらの中から,肝臓形成のマスター転写因子であるHnf1a,Hnf4aに注目し,より広範囲に転写開始点近傍のDNAメチル化を解析した。その結果,COBRA解析の結果と同様に,Hnf1a,Hnf4aは転写開始点近傍が肝臓で低メチル化であった。Hnf1a,Hnf4aについて発現解析を行った結果,解析した4組織,細胞の中では肝臓のみでmRNAの顕著な発現がみられた。これらの結果から,Hnf1a,Hnf4aは肝臓特異的発現がDNAメチル化によって制御されていることが示唆された。次に,Hnf1a,Hnf4aについて,DNAメチル化を制御している可能性があるASncRNAの発現解析を行った。その結果,低メチル化状態である肝臓のみでASncRNAの顕著な発現がみられた。以上より,Hnf1a,Hnf4aは肝臓において,ASncRNAがプロモーター領域の低メチル化を誘導することで遺伝子発現を活性化している可能性が示された。