【目的】排卵後,受精までの経過が長く,老化した卵母細胞では酸化ストレスの亢進とミトコンドリア機能の低下がおき,結果的にATP産生が減少し,最終的に受精後の胚発生の低下を招くことが明らかになっている。一方,抗酸化作用やATP産生亢進の両面からミトコンドリア機能の活性化が明らかとなっているコエンザイムQ10(Coenzyme Q10; CoQ10)は,動物生体内では酸化型から還元型に変換されて,抗酸化作用を示す物質であるため,還元型CoQ10はより迅速な作用発現が期待されている。そこで,本研究では,酸化型及び還元型CoQ10がマウス体外老化卵母細胞の老化プロセスに対する影響を検討した。【方法】過排卵を誘起したICR系雌マウスより採卵し,CoQ10を含むHTF培地において4, 8, 12, 16時間体外老化させた。この体外老化卵母細胞をウエスタンブロッティングに用い,酸化的修飾タンパク質量を調べた。また,体外老化卵母細胞をIVFに供試した。【結果および考察】酸化型及び還元型CoQ10を体外老化卵母細胞に添加することで,酸化的修飾タンパク質量が減少することが認められた。このことより,CoQ10は卵母細胞のミトコンドリアにおける活性酸素種の産生を抑制することで酸化タンパク質の減少を引き起こす可能性が示唆された。なお,その作用は,酸化型CoQ10添加区より還元型CoQ10添加区で早期に認められた。また,酸化型CoQ10が体外老化卵母細胞の受精に及ぼす影響は認められなかった一方で,還元型CoQ10処理によって,採卵後12時間区でも4及び8時間区と同じ受精率が維持されることが示された。さらに,還元型CoQ10処理は,採卵後8時間培養した老化卵母細胞の発生率を有意に改善した。これらの結果より,CoQ10はマウス卵母細胞のミトコンドリア機能の活性化に作用することが明らかになり,老化卵子の発生率向上へとつながる可能性が示唆された。また,その作用を発揮する時間は,還元型が酸化型より早いことが認められた。