日本繁殖生物学会 講演要旨集
第109回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-24
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生殖工学
ポリグルタミン病モデルマーモセットの作出
*富岡 郁夫皆川 栄子尾張 健介中谷 輝美野上 尚武永井 義隆関 和彦
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抄録

【目的】様々な神経変性疾患の中でポリグルタミン病は,ハンチントン病や脊髄小脳失調症など9疾患の総称であり,原因遺伝子内のグルタミンをコードするCAGリピート配列の異常伸長が原因であることが明らかになってきた。こうした知見を基に,異常遺伝子を導入した様々なトランスジェニックマウスモデルが開発され,神経変性疾患の発症分子メカニズムの解明や治療法開発研究に貢献してきたが,ヒトとげっ歯類では脳の構造や機能,代謝経路が大きく異なり,またマウスなどの寿命内では最終的な神経症状・病理像の完成にまで至らず,神経症状の解析やバイオマーカー開発には不向きであった。そのため,げっ歯類より長寿命であり,かつ脳構造や代謝経路がヒトに近い霊長類モデルの開発が必要である。そこで本研究は,小型霊長類のマーモセットを用いてポリグルタミン病モデルを作出した。【方法】ポリグルタミン病のうち脊髄小脳失調症3型(SCA3)の原因遺伝子について,CAGリピート配列を異常伸長(120回以上)させた変異遺伝子を合成した。この変異遺伝子をレンチウイルスベクターを介してマーモセット受精卵へと導入した。【結果】計66個の遺伝子導入受精卵を仮親へ胚移植し,7頭(MJD1-7)の産仔が得られた。PCRを用いて遺伝子導入と発現を解析した結果,全ての個体で導入遺伝子が確認され,MJD3を除く6頭でその発現が認められた。また,各個体の導入遺伝子の発現量を比較した結果,MJD1,2,および7の3頭において高い発現量が認められ,この3頭はジャンプ力の低下やケージからのずり落ち・落下など神経疾患症状の発症が確認された。発症個体において症状の進行に伴い握力や活動量の低下が観察され,病理解析の結果,小脳および脊髄おいて神経細胞の変性や脱落などが認められた。以上,本研究では進行性の症状を呈するポリグルタミン病モデルマーモセットの獲得に成功した。

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© 2016 日本繁殖生物学会
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