日本繁殖生物学会 講演要旨集
第109回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-28
会議情報

生殖工学
バルプロ酸投与によるマウス精子エピゲノム様式の変化
*関根 雅史小林 記緒白形 芳樹岡江 寛明樋浦 仁平舘 裕希原 健士朗有馬 隆博種村 健太郎
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】近年,個体を取り巻く特定の環境変化による精子エピゲノム様式変化が,次世代へ伝達される可能性が示され,要因として精子残存ヒストンと精子DNAのメチル化領域の変化が挙げられる。エピゲノム様式修飾の変化・相互作用が遺伝子発現を制御することから,精子エピゲノム様式修飾の改変が可能になれば,次世代個体の表現型制御につながり,動物生産領域で,遺伝子改変を伴わない優良個体作出への貢献が期待できる。一方,特定のエピゲノム様式に影響を及ぼす化合物が知られている。本研究では精子エピゲノム様式改変を目指し,モデル化学物質としてヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるバルプロ酸(VPA)を選択し,マウスへの投与による精子エピゲノム様式の改変が可能かを検討した。【方法】C57BL/6雄マウスを用いて,4週齢時および8週齢時からVPA(100 mg/kgBW/day)を2週間連続腹腔内投与した(対照群には生理食塩水を投与)。各群のマウスを12週齢時に解剖し,精巣の一方をメタカン固定後,パラフィン包埋切片を作成し免疫蛍光染色に供した。もう一方の精巣は,ウェスタンブロット法に供した。また,精子を精巣上体から採取しRRBS法により各群の精子DNAの次世代シークエンスデータを得て,それぞれのプロモーターとエンハンサーにおけるメチル化量を測定した。【結果と考察】免疫蛍光染色像およびタンパク発現解析から,いずれの投与群でもVPA投与群のマウス精細胞および精巣全体におけるヒストンリジンアセチル化が対照群と比較して有意に上昇していた。また,対照群と投与群の精子のプロモーターとエンハンサー領域のメチル化を比較した結果,DNAメチル化量に有意な差をもつ領域を特定した。これは,バルプロ酸投与により,分化過程の精細胞,および精子DNA上の特定遺伝子発現の制御部位に影響が生じたことを示している。即ち,VPAにより精子エピゲノム様式改変の誘導が可能と考えられた。現在,VPA投与マウス精子エピゲノム様式に生じた変化についてバイオインフォマティクス解析を進めている。

著者関連情報
© 2016 日本繁殖生物学会
前の記事 次の記事
feedback
Top