【目的】ラットは,性周期が安定しており繁殖性が良く,過排卵により多くの卵母細胞を採取することのできる実験動物である。しかしながら,産子数が少なく,過排卵が誘起しにくい系統も存在している。これらの系統から多くの卵母細胞を得るために,卵巣内の卵核胞(GV)期卵母細胞を体外で成熟させる技術は効果的である。本研究では,ラット卵巣内より採取したGV期卵母細胞を4種類の培養液を用いて体外成熟させ,その後の卵母細胞の受精能および産子への発生能について検討した。【方法】8週齢以上のWistar,F344およびBN雌ラットに,PMSG(150あるいは300 iu/kg)を投与した。投与48時間後,胞状卵胞内より卵母細胞−顆粒膜細胞複合体(OGCs)を採取した。採取したOGCsは,HTF,αMEM,HTF+αMEM(1:1混合液)あるいはTYH+αMEM(1:1混合液)で16時間培養した。培養後,第二減数分裂中期(MII)へと成熟した卵母細胞は,塩化ストロンチウム(SrCl2)で活性化処理をすることで成熟度を評価した。また,体外成熟後のMII卵母細胞は,顕微授精により同系統の凍結保存精子と受精させた。受精後,前核期胚あるいは2細胞期胚へと発達した胚は,偽妊娠雌の卵管内に移植し産子への発生について調べた。【結果および考察】今回用いた全ての培養液において,60%以上の卵母細胞がGV期からMIIへと発達した。成熟したMII卵母細胞をSrCl2で活性化した結果,αMEMおよびTYH+αMEMで成熟培養したときに高い活性化率を示した。また,αMEMで培養した卵母細胞は,顕微授精後の産子発生率が高かった。以上のことから,ラット卵母細胞はαMEMで体外成熟が可能であり,過排卵誘起による卵母細胞採取が困難なラット系統から卵母細胞や受精卵を作製するために有効な方法として利用することができると考えられる。