日本繁殖生物学会 講演要旨集
第112回日本繁殖生物学会大会
セッションID: P-103
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ポスター発表
ゲノム編集による遺伝性腎疾患モデルカニクイザルの作出
*中家 雅隆築山 智之小林 憲市岩谷 千鶴土屋 英明清田 弥寿成松下 淳北島 郁河本 育士中川 孝博福田 浩司岩切 哲平和泉 博之板垣 伊織中村 紳一朗河内 明宏依馬 正次
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抄録

【目的】常染色体優性多発性嚢胞腎(Autosomal dominant polycystic kidney disease ,ADPKD)は,最も頻度の高い遺伝的疾患の一つであり,嚢胞腎モデル動物を用いた研究が多数報告されているものの,未だ,決定的な治療法は存在しない。その理由の一つとして,嚢胞腎モデルのほとんどがマウスやラットのような小動物であり,ADPKDの病態を正確に再現できないことが挙げられる。重要なことに,ヒトではPKD1遺伝子のヘテロ変異で弱年齢から嚢胞発生することが知られているのに対し,Pkd1ヘテロマウスでは生存期間中にほとんど嚢胞発生を認めない。本研究では,CRISPR/Cas9を用いることで,カニクイザルにおいてADPKDモデルを作出し,ヒトのADPKDの病態を正確に再現することを目的とした。【方法】ADPKDモデルカニクイザルを作出するため,Pkd1遺伝子を標的としたsgRNA mRNAとCas9 mRNA,あるいはRNP複合体を,カニクイザルICSI胚にインジェクションし,KO効率の検討と,産仔の作出を行った。流産,あるいは生後死亡した個体は,組織を回収し,組織学的,分子生物学的解析を行った。【結果および考察】インジェクションした胚の90%以上で標的領域において変異を検出した。また,流産胎仔の解析により,Pkd1 KOカニクイザルにおける腎臓の極端な肥大,肝臓,膵臓での嚢胞発生を確認,Pkd1ヘテロカニクイザルにおいても胎仔期,幼若期からの嚢胞形成を確認した。さらに,生存産仔においても,腎臓における嚢胞発生をエコー検査によって確認した。これらの結果より,CRISPR/Cas9によるPkd1遺伝子の変異誘導により,カニクイザルにおいてADPKDの病態を再現できることが示された。今後,これらのモデルカニクイザルを用いることにより,従来は難しかった若年期の病理解析や投薬実験,長期に渡る経過観察が可能となり,ADPKDの発症機構の解明や創薬への貢献が期待される。

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