抄録
【目的】細胞が凍結保存後に生存するためには,細胞内外へ水や耐凍剤がすみやかに透過する必要がある。マウス胚では桑実期以降に水や耐凍剤に対する透過性が著しく上昇するが,それには水チャンネルであるaquaporin(AQP)3の発現が関与していることが示唆されている。そこで本研究では,マウス桑実胚のAQP3の発現を人為的に抑制することにより,AQP3が胚の水や耐凍剤に対する透過性にどの程度関与しているか調べた。【方法】ICR系マウスの1細胞期胚に1 ng/nlのAQP3 double strand RNA(ds RNA)を約20 pl注入し,72時間培養して桑実胚まで発生させた。そして,等張のPB1液(0.29 Osm/kg)で平衡化後,25˚CのSucrose添加PB1液(0.80 Osm/kg)に5分間浸し,その体積変化から水透過係数(LP)を算出した。同様に,10% glycerol(Gly),8% ethylene glycol(EG),1.5 M acetamide(AA),9.5% DMSOあるいは10% propylene glycol(PG)を添加したPB1液(1.85~1.92 Osm/kg)に25˚C で10分間浸し,その体積変化から耐凍剤透過係数(PS)を算出した。【結果】AQP3 ds RNAを注入した胚のLPは無処理の桑実胚と比べて著しく低下し,水チャンネルを発現していないと考えられる未受精卵と同程度であった。AQP3 ds RNAを注入した胚のPGlyおよびPEGも有意に低下した。一方,PPG,PDMSOおよびPAAは低下しなかった。以上の結果より,マウスの桑実胚における水や耐凍剤の透過性の上昇において,AQP3は水,GlyおよびEGの透過に関与していると考えられた。