日本繁殖生物学会 講演要旨集
第98回日本繁殖生物学会大会
セッションID: 97
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生殖工学
神経幹細胞核移植によるクローンマウス作出
*水谷 英二大田 浩岸上 哲士Nguyen van Thuan引地 貴亮Bui Hong Thuy若山 清香佐藤 英明若山 照彦
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抄録

[目的] マウスのような胚性幹細胞(ES細胞)が樹立されていない動物種から遺伝子改変個体を作出するためには、長期間の体外培養が可能で、核移植によって個体まで成長しうるドナー細胞が必要となる。最近、未分化な体性幹細胞が種々の組織から分離されており、中でも神経幹細胞は体外培養において未分化な状態を保ったまま、増殖、継代培養が可能で成体からでも採取可能なため、ES細胞を持たない動物種における新たな遺伝子改変動物作出のツールとして期待が持てる。そこで、本実験ではマウス神経幹細胞の核移植を行ってその利用の可能性を検討した。[方法]  神経幹細胞は1-4日齢129B6F1雄マウスの脳から分離した。定法に従って培養しニューロスフィアを形成した細胞塊は、免疫染色によって神経幹細胞のマーカーであるムサシに陽性であることを確認した。培養前、培養後の神経幹細胞、分化細胞であるセルトリ細胞、卵丘細胞および同系統マウス受精卵から樹立したES細胞をそれぞれ核移植し、体外における胚盤胞への発生能およびレシピエントマウスへの移植による個体への発生率を比較した。 [結果] 培養前および培養後の神経幹細胞からクローンマウスを得ることが出来た。しかしながらその成功率は、セルトリ細胞、卵丘細胞を用いた場合よりも低かった。また、体外培養における発生ではドナー細胞の種類によって発生がとまる段階が異なっており、胚盤胞まで発生できるクローン胚はセルトリ細胞、卵丘細胞では徐々に減少していったのに対して、ES細胞では2細胞への発生率が低いものの、大部分の分割胚が胚盤胞まで発生した。神経幹細胞においては体細胞と同様に2細胞期へは高率に発生したが、4細胞期以降への発生率が非常に低かった。これらの結果から、未分化な体性幹細胞をドナーとした場合でもクローン個体の作成効率の改善は認められないが、培養後の細胞からでもクローン個体を作出できたことから、神経幹細胞はES細胞を持たない動物種での遺伝子改変個体の作出に応用できる可能性が示された。

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© 2005 日本繁殖生物学会
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