2015 年 15 巻 p. 5-15
私たちの視知覚は一様ではない。たとえ,物理的に同一のものを見ていても,今,求められている状況によって,その情報を行動へ利用できるかどうかは左右される。しかし,直面する状況が異なった結果,主観として経験される帰結までも変わり得るのか,これまで明らかではなかった。そこで,本研究では,同一の観察者に,視覚対象の存在を問う検出課題と,刺激属性を判別する弁別課題を別個に行い,両者の視知覚を客観的な行動成績と主観的な確信度評定の両面から検証した。同一刺激に対する行動成績を比較すると,検出成績よりも弁別成績の方が高かった。しかし,正しく判断しているという確信度は,検出課題において高く表出された。このような客観指標と主観指標の逆転現象が,なぜ起こり得るかを明らかにするために,各課題において,行動成績に利用した情報をどの位,主観評定へ反映できているかというメタ認知感受性を算出した。その結果,検出課題の方が,行動成績に利用した情報をより正確にモニターし,主観評定へ反映できていることがわかった。以上から,私たちの視知覚系は,物理的に同一の視覚情報を受け取ったとしても,課題要求に応じて,質的に異なる情報処理を行い,また,その情報が主観的経験として変換する過程においても,量的に異なる確からしさが付与されていることが推察された。