抄録
[目的] 原爆被爆者では、今日においても被ばく放射線量に依存したナイーブT細胞の割合の低下が認められ、胸腺でのT細胞産生の低下が示唆されている。今回、T-cell receptor-rearrangement excision circles (TRECs) を有するT細胞を、胸腺移出後に細胞分裂を行っていないナイーブT細胞の指標として、被爆者の胸腺におけるT細胞産生能の評価を試みた。
[方法] 研究室内のコントロールならびに広島の原爆被爆者から同意書を取得して血液の供与を受けた。末梢血リンパ球画分より、CD4 T細胞およびCD8 T細胞をセルソーターにて分離し、それぞれの分画のTREC数をReal-time PCR (Prism 7900)によって測定した。Real-time PCR のreference DNA としてRag1を用いた。
[成績] 研究室内の対照を用いて行った実験では、良好な再現性でTRECのDNA配列を定量的に検出することができた。これまでに測定を完了した445名について、性、年齢、および被ばく線量を変量とした多重回帰解析を行ったところ、CD4 T細胞集団におけるTREC数は女性で有意に多く、男女とも加齢につれ有意に減少した。また、被爆時の年齢が20歳未満の対象者では、被ばく線量の増加とともに低下する傾向 (p = 0. 09) が示唆された。CD8 T細胞集団においても同様の性差および加齢の影響が認められたが、有意な放射線の影響は観察されなかった。
[結論] 原爆放射線被ばくによる胸腺でのCD4 T 細胞の産生が長期低下の可能性を支持する結果が得られた。さらに対象者数を拡大して検討する予定である。