抄録
近年、超音波エネルギーを体外から集束させ、数ミリ単位の正確さで患部を熱でAblateできる強力集束超音波治療(High Intensity Focused Ultrasound Therapy; HIFU)が前立腺癌などで実用化されている。一方、薬物治療と超音波エネルギーを併用する新しい試みがなされ、薬物の効果促進作用が多く報告されている。特に注目されているのは超音波の血栓溶解療法、癌治療への応用である。また、超音波造影剤(マイクロバブル)利用することで細胞内へ遺伝子を容易に導入できることも発見され、様々な分野における超音波とマイクロバブルの組み合わせが期待されている。治療用超音波の照射によってマイクロバブルの崩壊を時間的、空間的に制御できるので、薬物や遺伝子の局所投与が可能となる。
超音波エネルギーによる薬物透過促進メカニズムはまだ完全には解明されていないが、超音波で発生する気泡の複雑な物理運動は組織に何らかの影響を及ぼし、薬物透過性の促進をもたらしていると考えられる。生体組織に超音波が直接与える影響、および超音波で発生するキャビテーションなど物理作用で薬物効果の促進が生ずる。
in vitro における白血病細胞株(HL-60)へ抗癌剤cytosine arabinoside (Ara-C)を添加し超音波照射群と非照射群で長期的な細胞生存率を比較したところ、両群間で有意な差を認めた。このことは超音波によるAra-Cの細胞取り込み量が促進されたことを意味する。また走査型電子顕微鏡による細胞表面の観察では、微細な膜構造変化が認められ、超音波照射が癌細胞の薬物吸収に影響したと考えられる。超音波によって細胞膜に”孔”または”チャンネル”が一時的に開き、その後また閉じたことが示唆された。この現象をソノポレーション(SONOPORATION)と名づけられ、分子量の大きい物質を一時的に細胞内に取り込ませる事が可能であり、様々な疾患への応用が期待できる。