抄録
【目的】北太平洋のプルトニウムは、主に大気圏核実験によるグローバルフォールアウトおよびビキニ核実験によりもたらされた。海水中にプルトニウムがもたらされてから50年以上が経過しているが、海洋では未だ定常状態にはない。海水柱中での濃度、鉛直分布パターン、インベントリーも時間とともに変化していることが予想される。240Pu/239Pu同位体比は、原子炉のタイプ、核燃料の種類や燃焼時間、核兵器のタイプなどによって大きく異なることが知られている。本研究では、海水中の239+240Pu濃度と240Pu/239Pu同位体比の鉛直分布の測定から、海洋における挙動や起源を解明することを目的とした。
【方法】海水試料は、淡青丸KT-92-4次研究航海において、相模湾中央部から2筒式大量採水器を用いて採取した。陰イオン交換樹脂カラム法によりPuを分離・精製した。α線測定後、SF-ICP-MSを用いて、240Pu/239Pu同位体比を測定した。
【結果・考察】相模湾中央部における海水中の239+240Pu濃度は、表層で13 mBq/m3であり、中層で39 mBq/m3と極大となり、底層で19 mBq/m3となる鉛直分布を示した。また、海水柱中の239+240Puのインベントリーは、41 Bq/m2であり、グローバルフォールアウトから推定される値(42 Bq/m2)と同程度であった。相模湾の海底堆積物中の239+240Puのインベントリーは、191+-120 Bq/m2であることから(Yamada and Nagaya,2000)、西部北太平洋縁辺域はプルトニウムの主要なsinkであると言える。240Pu/239Pu同位体比の鉛直分布は、表層から底層までほぼ一定の値を示した。240Pu/239Pu同位体比の結果は、ビキニ核実験起源のプルトニウムの存在を示唆していた。