日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
セッションID: W1R-312
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放射線発がんの”非標的仮説”について
細胞老化への細胞内酸化ストレスの関与
*小橋川 新子菓子野 元郎渡邉 正己
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キーワード: 老化, 酸化ストレス, 中心体
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抄録

【背景・目的】 我々は、これまでに放射線発がんの機構として染色体異数化が密接に関わっていることを報告してきた。この染色体異数化がどのように誘導されるのかについては未だ明らかではない。最近、放射線は、細胞内酸化制御機構の撹乱を起こし、それによって細胞内酸化ストレスが亢進し様々な遅延性遺伝的変化の原因になると予想されるようになった。そこで、本研究では、染色体異数化に直接つながる細胞内標的として中心体に焦点を絞り、放射線被ばくした細胞のがん化変化に伴う細胞内酸化ストレスの変動と中心体の機能異常との関係を詳細に調べた。 【方法】本研究には、シリアンハムスター胎児 (SHE) 細胞を用いた。細胞内酸化度は、DCFH試薬を用いて細胞内H2O2濃度をフローサイトメーターで定量的解析を行った。また、中心体の数と構造は、抗γチューブリン抗体を用いた蛍光免疫染色法で観察した。 【結果】SHE細胞にX線を照射すると照射3日後をピークに一過性に細胞内酸化度が上昇した。この細胞内酸化度の上昇時期は、中心体の数の異常が観察される時期と一致した。継代培養を続けると継代22代あたりで細胞増殖停止する群と増殖停止を乗り越える群の二つの細胞群が出現した。前者では、細胞内酸化度の急激な上昇が見られ、それに伴い中心体数の増加が観察された。 そして、酸化度の値がピークを迎えたとき細胞増殖が完全に停止した。一方、後者では、一時的な細胞内酸化度の上昇が観察されるものの、その後、酸化度は、非照射細胞群のレベルまで戻り増殖能が維持され、最終的に無限増殖能を獲得した。 【考察】 これらの結果は、細胞老化は酸化ストレス量の増加による中心体数の異常と密接に関わる現象であり、この現象は、放射線被ばくで助長されることを示唆する。そのことが細胞分裂機構の不調を起こし細胞が増殖能をなくす要因であると推測される。

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© 2007 日本放射線影響学会
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