抄録
メダカ放射線高感受性変異体ric1系統は、胚を用いた中性コメットアッセイによってDNA二本鎖切断(Double Strand Break: DSB)修復速度が低下していることが[Aizawa et al, 2004]、また培養細胞への放射線照射後の形態観察よりアポトーシス、細胞周期にも異常が存在することが明らかとなっている[日高征幸等、第49回影響学会]。そこで、本研究ではric1の異常がDSB修復経路のどの段階に関与しているかについて培養細胞を用いた実験により詳細に解析した。DNA修復機構にはHomologous Recombination(HR)とNon-Homologous End-Joining(NHEJ)の二つの経路が存在することが知られている。ric1と野生型間の各経路を介した修復能を比較することで、ric1の異常がHRもしくはNHEJ特異的なものであるのか、両経路ともに関与しているのかを明らかにすることが可能である。そこでレポーターコンストラクトを安定導入した細胞内でエンドヌクレアーゼI-SceI発現プラスミドの一過的な導入による人為的なDSBを起こし、その修復経路を蛍光タンパク質の発現によって検出する実験系であるHRアッセイ、EJアッセイを用いてric1と野生型間のHR修復能、NHEJ修復能を比較した。その結果、ric1のHR修復能は野生型と比べて低下していることが明らかとなった。現在、NHEJによる修復能についても野生型と比較検討している。さらに、DSB修復の主要な因子として働いているATM、ヒストンH2AXとの関与を調べるために、薬剤によってATMを阻害後のHR、NHEJ能の解析、またヒストンH2AXのリン酸化の程度とDSB修復能との相関についてフローサイトメーターを用いて定量的に解析することでric1が修復経路のどの段階における異常であるのかを解析している。これらの結果について本大会において発表する予定である。