抄録
Base excision repair(BER)は、大腸菌から哺乳類に至る多くの生物で保存されている主要なDNA修復経路のひとつである。1ヌクレオチドのみを除去する経路は、Single-nucleotide BER(SN-BER)として知られている。我々は、メチル化塩基損傷やヒポキサンチンなど、プリン塩基に生じた様々な損傷を認識するmethylpurine- DNA glycosylase(MPG)に焦点を当て、ヒトのSN-BERにおけるタンパク質間の相互作用を研究してきた。これまでに、放射性同位体で標識したオリゴヌクレオチド基質を用いた活性試験により、SN-BER経路の下流の酵素が上流の酵素活性を上昇させることを明らかにした。例えば、AP endonuclease 1(APE1)はMPG活性を増強し、DNA PolymeraseβはAPE1活性とMPGの活性の両方を増強した。この活性の増強には、kcat値の増加が見られるため、下流の酵素の存在は反応産物からの解離を促進することが示唆された。また、X-ray repair cross complementing protein 1(XRCC1)は、多くのBER関連タンパク質との相互作用によってタンパク質の安定化に働いており、細胞内に存在するDNA ligase 3α(LIG3α)の約8割と複合体を形成して存在すると考えられている。そこで、組換えXRCC1を作成したところ、XRCC1単独存在下ではMPGのkcat/Kmが最大1.8倍に、APE1の切断活性は最大7.1倍に増加した。このことは、BERの初期段階から、多くのBER関連タンパク質による修復複合体が存在する可能性を示唆する。さらに、SN-BER各段階の活性変化を細かく解明するために、組換えLIG3αを作成し、Lig3α-XRCC1複合体がMPG活性、APE1活性に及ぼす作用を検討中である。