抄録
我々は出芽酵母 S. cerevisiaeをモデル生物として用い、二種類の異なる放射線による生体内への影響を解析した。放射線はカーボンビームとプロトンビームの二種類を、照射株には全遺伝子配列決定がされている S288C 株を用いた。放射線量と生存率の関係の解析を行ったところ、カーボンビームでは50Gy の照射で生存率が 10% 以下になり、プロトンビームでは300Gy の照射で生存率が 10% 以下になった。興味深いことに、カーボンビーム、プロトンビームともそれぞれ更に 2000Gy、1000Gy の高線量を照射しても、生存率が 0% にならず、ある一定量の線量を超えると生存率は低下せず、横ばい状態が続くことが明らかとなった。更に、2000Gy のカーボンビーム照射で生育した酵母株に、300Gy のカーボンビームを照射したところ、野性株に比べ生存率が8~10倍上昇し、これら生存率が上昇した酵母にもう一度照射すると更に生存率が上昇した。これらの結果より、高線量照射でも生育する酵母株は放射線耐性を獲得していることが示唆された。そこで、放射線耐性酵母の特異性の有無を解析するため、シングルコロニー分離を行い、個々の酵母株に関して同様の表現型が見られるか解析した。具体的には、増殖速度、高温感受性、低温感受性、 MMS、Bleomycin 等の様々な薬剤に対する感受性、顕微鏡観察による形態異常、チェックポイント異常による細胞周期の変化等を解析した。また、2次元電気泳動法による、発現タンパク質の違い、パルスフィールド電気泳動を用いた染色体の異常等も解析したので合わせて報告する。