抄録
【目的】電離放射線の生物学的作用には直接作用と間接作用があり、X線などの低LET放射線では活性酸素種(reactive oxygen species、 ROS)による間接作用が主体となる。この時ミトコンドリアは呼吸代謝を含むROSの発生源であると同時にROSの標的器官となる。造血幹細胞は放射線高感受性細胞として知られているが、放射線曝露細胞内ROS産生やミトコンドリア機能の関与等その詳細は不明な点が多い。本研究では造血幹細胞の放射線感受性、細胞内ROS産生及びROSの標的器官であるミトコンドリア量について検討した。
【方法】ヒト臍帯血から有核細胞を回収し、さらに磁気ビーズ法にてCD34+細胞を分離・精製した。造血前駆細胞のコロニーアッセイは、至適サイトカイン存在下メチルセルロース法で行った。細胞内ROSは、細胞を2',7'-dichlorofluorescein diacetateで処理し、ミトコンドリア発光量は、蛍光プローブMitotracker Green FMで染色後フローサイトメーターにより解析した。放射線照射は、X線発生装置を用いて150 kv, 20 mA, 0.5 mm Al + 0.3 mm Cuフィルター、90~100 cGy/minの条件で行った。
【結果・考察】CD34+細胞のROS産生は、放射線照射直後では観察されず、サイトカイン刺激下3~6時間後においてわずかな産生が観察された。同様の実験を、ヒト単球系前駆細胞株U937及びヒト正常繊維芽細胞株WI-38において検討したところ、照射直後でCD34+細胞の10~20倍のROS産生が認められた。また、CD34+細胞のミトコンドリアの発光量は2つの細胞株の半分以下であった。この時、ミトコンドリアの発光量と4 Gy照射造血幹細胞の生存率の間には正の相関が観察された。以上の結果から、造血幹細胞ではROS産生が極端に低いか、もしくは強力なROSの除去機構を有している可能性が示唆され、この現象にミトコンドリアが関与している可能性が考えられた。