抄録
間葉系幹細胞には造血幹/前駆細胞の細胞増幅促進及び未分化維持能が報告されている。最近になって我々は、臍帯血由来間葉系幹細胞様ストローマ細胞が放射線非曝露造血幹/前駆細胞だけでなく放射線曝露細胞の回復に対しても有効であることを明らかにした1)。本研究では、この共培養系における造血幹/前駆細胞造血回復に関与する因子、特に造血細胞に対する増殖促進作用や分化制御能が報告されている細胞外マトリックス成分について検討した。造血幹/前駆細胞は、ヒト臍帯血より磁気ビーズ法を用いてCD34+細胞を分離精製して用いた。また、その際に排出した有核細胞をシャーレに撒き、FBS及びbFGF存在下で培養し、接着・増殖してきた細胞を間葉系幹細胞様ストローマ細胞として共培養実験に用いた。ストローマ細胞を24 wellプレートに撒き、その上に無血清培地で懸濁した放射線非照射もしくは照射CD34+細胞を播種し、IL-3、TPO及びSCF存在下で14日間培養した。その結果、ストローマ細胞との共培養により、生存細胞数及び前駆細胞数はストローマ非存在下と比べ有意に増加した。また、ストローマ細胞との共培養により未分化マーカーの増加と共に分化マーカーの発現が低下傾向を示した。一方、サイトカインを培養開始16時間後に添加するとストローマ非存在下、放射線照射細胞における造血は同時添加と比べて劇的に低下したのに対し、ストローマと共培養によりサイトカイン同時添加と同等の造血を示した。さらに、共培養によりヒアルロン酸濃度はストローマ非存在下と比較して有意に増加した。一方、硫酸化グリコサミノグリカン濃度は、放射線非照射細胞と比較して放射線照射CD34+細胞単独培養において有意に増加した。以上の結果から、臍帯血由来ストローマ細胞はヒト放射線曝露CD34+細胞の造血回復において、CD34+細胞とストローマ細胞との接触刺激が重要であると共に、細胞外マトリックス成分産生が大きく関与している可能性が示唆された。
1) Life Sci. 84: 598 (2009).