日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
セッションID: OB-30
会議情報

修復遺伝子
中心体構成分子Pericentrin変異による遺伝性小頭症に見られる多様な細胞周期異常
*宮本 達雄坂本 裕美松本 祥幸松浦 伸也
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
胎内被曝した胎児が出生した場合、高頻度に発育不全や精神遅滞をともなう小頭症を発症することが動物実験や原爆被爆者の疫学調査から明らかになっている。しかし、その発症機序についての分子・細胞レベルでの理解は進んでいない。我々はヒト遺伝性小頭症の分子基盤を明らかにすることで、放射線障害としての小頭症・発育不全の発症・病態の本質的な理解を目指している。常染色体劣性遺伝病・セッケル症候群は重度小頭症と均整のとれた小人症を特徴とする疾患で胎内被曝者に極めてよく似た病態を示す。本疾患は遺伝的異質性が高く、これまでに原因遺伝子としてATR遺伝子と中心体構成タンパク質であるPericentrin(以下、PCNT)遺伝子が同定されている。
本研究では、日本人セッケル症候群患者2例にPCNT遺伝子の変異を同定し、患者細胞が細胞周期の進行制御について多様な異常を示すことを見出した。まず、患者皮膚線維芽細胞に紫外線を照射後、分裂指数を解析した。その結果、患者細胞はM期細胞数の抑制が起こらなかったことから、ATRシグナル依存的にG2/M期チェックポイントの異常が示唆された。次に、多くの細胞はG0/G1期に「一次繊毛」という1本の細胞突起構造を細胞表面に形成するが、患者細胞は一次繊毛を有する細胞の割合が大きくなっていることを見出した。また、患者細胞はBrdUの取り込みが低下していたため、S期への進行が阻害されていることが示された。以上のことから、患者細胞はG1期停止状態にあることが示された。さらに、患者細胞はp53タンパク質量とp53の標的であるp21タンパク質量が上昇しており、G1期停止はp53依存的であることが示唆された。このG1期停止は、ヒト骨肉腫細胞U2OS細胞においてPCNT分子をsiRNAでノックダウンすることによっても確認できる。現在、PCNT分子によるp53を介した細胞周期制御機構の解析を進めており、本疾患にみられる臓器サイズ縮小化の発症メカニズムの解明を試みている。
著者関連情報
© 2009 日本放射線影響学会
前の記事 次の記事
feedback
Top