抄録
NBS1タンパク質はMre11、Rad50とMRN複合体を形成して、DNA2重鎖切断(DSB)修復の中心的な役割を担っている。NBS1遺伝子変異は、重度小頭症・発育遅滞・免疫不全・染色体不安定性・放射線感受性を特徴とするナイミーヘン症候群を発症する。一方、Mre11遺伝子変異は、小頭症の代わりに小脳性運動失調症を主徴とする毛細血管拡張性運動失調症様疾患(AT様疾患)の原因となる。これまでに我々は、Mre11遺伝子変異を持ちながら、ナイミーヘン症候群に類似した重度小頭症を示す患者2例を報告した(日本放射線影響学会第51回大会)。本研究では、患者細胞の解析から、患者2例がATLDではなく重度小頭症を発症した分子病理の解明を試みた。
患者はいずれもMre11遺伝子のコンパウンドヘテロ接合体であり、同一のスプライス変異とそれぞれ異なったヌルタイプ変異を持っていた。RT-PCRおよびウェスタンブロット解析により、このスプライス変異から、正常mRNAがわずかに転写・翻訳されることが明らかになった。DSBはMRN複合体を介してATMキナーゼを活性化し、アポトーシスを誘導することが知られている。患者細胞で放射線照射後のATM活性化と、p53およびSMC1のリン酸化、Caspase-3の活性化を検討したところ、いずれもAT様疾患細胞に比べて高いレベルを示し、アポトーシスの亢進が示された。これは本患者細胞における正常なMre11タンパク質の残存量に依存すると考えられた。