抄録
【目的】前本大会で、ヒト肺腺癌由来A549細胞においてX線照射すると二次的に細胞内活性酸素種(ROS)の増大が起こり、その由来がミトコンドリア電子伝達系に起因していることを報告した。一方、放射線照射を受けた細胞は、G2チェックポイントの働きにより細胞周期が停止することがよく知られており、近年、細胞内でのミトコンドリアの融合・分裂に細胞周期依存性があることが示唆されている。以上の事から放射線照射後のG2期における細胞の集積と細胞内ROS量の増加に因果関係があるのではないかと考え、本研究においてこれを検討した。
【材料・方法】細胞はA549細胞を用い、対数増殖期にX線を10Gy照射した。細胞周期はpropidium iodide (PI)またはNuclear-IDTM Red DNA Stain、細胞内ROS量はDCFDA、ミトコンドリア膜電位はDiOC6をそれぞれ特異的蛍光プローブとして用い、フローサイトメトリーにて解析した。この際、Nuclear-IDTM Red DNA Stain試薬は、DCFDAもしくはDiOC6との二重染色に用いた。
【結果】X線を照射したA549細胞において、先の報告と同様、照射後12時間で有意な細胞内ROS量の増加が見られた。次に細胞周期のG1、S、ならびにG2/Mの各分画細胞内ROS量の変化を調べたところ、X線照射後全ての細胞周期分画においてROS量は同程度上昇していた。加えて、X線の照射・非照射に関わらずG1およびS期と比較してG2/M期における細胞内ROS量が多く、ミトコンドリア膜電位も高いことが明らかになった。X線照射によりG2/M期での細胞の集積が観察された事と合わせて考えると、細胞群全体のROSの上昇には、ミトコンドリア活性化を介した個々の細胞内でのROS量の上昇に加え、他の細胞周期に比べ相対的にROS量の多いG2期への細胞分布の偏りが関与している事が示唆された。