抄録
【目的】コンフルエントな状態の正常細胞では、X線照射24時間後に処理した場合の生存率は、照射直後に処理した場合の生存率より有意に高いことが知られている(潜在的致死損傷修復:PLDR)。高LET重粒子線ではPLDRが欠如すると言われているが、重粒子線におけるPLDRの評価およびPLDRのLET・加速核種依存性について詳細に明らかにしたものはない。本研究ではヒト胎児肺由来正常線維芽細胞におけるPLDRのLETおよび加速核種依存性について検討した。
【材料と方法】 ヒト肺由来正常線維芽細胞を用い、X線、炭素イオン(290 MeV/u,135 MeV/u、13~100keV/µm)、ネオンイオン(400 MeV/u、55~100keV/µm)、鉄イオン(500 MeV/u、200~400keV/µm)で細胞を照射した。照射後37℃炭酸ガスインキュベータ内で24時間修復させプレーティングした細胞(Delayed Plating:DP)と照射直後にプレーティングした細胞(Immediate Plating:IP) についてコロニー法より生存率の線量効果関係を求めた。
【結果・考察】X線、13keV/μmから400keV/μmの重粒子線で照射した細胞の生存率曲線より、それぞれのIP、DPのD10値を計算してDPD10/IPD10比を求めた。結果、X線ではDPD10/IPD10比は1.8に対して鉄イオン500MeV/uのLET400keV/umではその比は1.13になった。LETが高くなるとPLDRは明らかに少なくなった。また、同じLETであっても違う加速核種でPLDRに差がある事が分かった。X線のIP、DPのD10値に対してRBE値を求めた結果、IPでは1.18から2.88、DPでは1.28から4.11になった。以上の結果から同じLETで加速核種が異なるとPLDRも異なる事が分かった。D10値の比較よりX線や低LETの粒子線では潜在致死損傷修復が起きやすく、IPよりDPの方がRBE値は高いことが分かった。