抄録
遺伝子変異の発生を阻止することは、癌化などの進展を抑制する重要な方策と期待される。我々は、これまでに癌患者における変異発生メカニズムの研究から、紫外線照射後の変異誘発を、シャペロンGRP78が抑制的に働くことを見出している(Pancreas, 36, e7-14, 2008)。次に、GRP78を介して変異の抑制に働く食品がないかを検索している。
今回、1300年以上に渡り日本の食生活で重要な役割を担ってきた発酵食品である味噌に注目した。ヒト細胞における味噌による変異への影響を調査した研究はない。本論文では、味噌処理培養ヒトRSa細胞で、紫外線誘発変異の抑制が見られるかを調査した。また、抑制に関わると予測されるシャペロンGRP78の関与も検討した。
味噌やその素材の水溶性画分で処理したRSa細胞では、紫外線誘発変異の抑制が、ウアバイン耐性化変異検出法やK-ras遺伝子塩基置換変異検出法によりみられた。また、味噌処理後GRP78の発現誘導が確認され、その発現をsiRNA処理により抑制すると、変異誘発の抑制がみられなくなった。従って、変異誘発が味噌により抑制され、その抑制にGRP78が関わることが示唆された。