日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第54回大会
セッションID: PA-27
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A DNA損傷・修復
DNA付加体の損傷乗り越えDNA合成によって生じる突然変異の解析
*藤川 芳宏東垣 由夏川西 優喜高村 岳樹倉岡 功八木 孝司
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抄録
【背景・目的】
  シスプラチンは抗がん剤として臨床で用いられているDNAクロスリンク剤であり、シスプラチン-DNA付加体(モノアダクト、塩基間架橋および鎖間架橋)を形成する。一方、大気中に含まれる変異原物質である3-ニトロベンズアントロンは、生体内で代謝されDNA中のグアニンやアデニンと反応し、複数のアミノベンズアントロン-DNA付加体(ABA付加体)を形成する。DNA付加体は通常、ヌクレオチド除去修復(Nucleotide excision repair: NER)によって取り除かれるが、除去されなかったDNA付加体は損傷乗り越えDNA合成(Translesion DNA Synthesis: TLS)を経て突然変異を誘発する。
  そこで本研究は、シスプラチン塩基間架橋付加体(隣接グアニン間付加体のPt-GG, 1塩基離れたグアニン間付加体のPt-GTG)、ABA-DNA付加体(dG-C8-N-ABA, dG-C2-C8-ABA, dG-N2-C2-ABA, dA-N6-C2-ABA)が誘発する突然変異の頻度と種類を明らかにすることを目的とした。具体的には、それぞれの付加体を持つDNAを複製する時のTLSの起こりやすさTLSの際に誘発する突然変異の頻度と種類を解析した。
【方法】
  まず、部位特異的に各DNA付加体を1分子持つプラスミドを作製した。このプラスミドはLacZ’遺伝子中に各DNA付加体を持ち、相補鎖にはDNA鎖マーカーとして2 bpのふくらみを持つ。TLSが行われたものはLacZ’遺伝子がin frameとなりX-gal/IPTGを含むLB寒天培地上で青色コロニーを形成する。付加体がない側の鎖を複製したもの(Damage induced strand loss: DISL)は2 bp多くなるのでout of frameとなり白色コロニーを作る。このプラスミドをヒト由来のNER欠損線維芽細胞(XPA細胞)に導入し、複製させた。複製した娘プラスミドをインジケーター大腸菌(DH5α)に導入して解析した。
【結果・考察】
  すべてのDNA付加体はDNA合成を阻害するが、TLSもされることがわかった。さらに阻害する割合は各付加体の化学構造や結合様式によって異なることもわかった。次に各付加体を複製した際に、各付加体の相手鎖にどのような塩基が挿入されていたのかを解析した。その結果、シスプラチン付加体では、Pt-GTGの方が多くの変異が生じることがわかった。更に、付加部位だけでなく付加部位の下流でも変異が生じることがわかった。一方、ABA付加体では、TLSの際にdG-C8-N-ABAで最も多くの変異が生じることがわかった。
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© 2011 日本放射線影響学会
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