抄録
【背景と目的】
近年確立されたニューロスフェア(NS)法は神経幹細胞の培養を可能にした。もし、マウスニューロスフェア(NS)細胞を、正常な分化能や放射線応答を持ったまま不死化させることができれば有用である。そこで本研究は、神経幹細胞を含む不死化細胞の樹立を目指して、2倍体の染色体構成を持つ不死化NS細胞を分離することを試みた。
【材料と方法】
14.5日齢のICRマウス胎児からNS細胞及び線維芽細胞を分離して、培養系に移した。細胞を3日毎(3T2)、5日毎(5T2)、10日毎(10T2)に継代培養し、集団分裂回数(PDN)と染色体数分布を解析した。2倍体細胞を分離するために、70PDN付近のNS細胞をメチルセルロース培地中でコロニー形成させ、コロニーを分離して染色体数を解析した。
【結果と考察】
マウスNS細胞を3日毎(3T2)、5日毎(5T2)、10日毎(10T2)に継代培養した場合、3T2培養系では老化したのに対し、5T2培養系、及び10T2培養系では100PDNを超えても増殖し続けたことから不死化したと判定した。線維芽細胞においても、3T2培養系では老化し、10T2培養系では不死化した。そこで染色体分析を行ったところ、不死化した線維芽細胞は、40PDNの時点で全て3~4倍体域の染色体数を示し、2倍体細胞は存在しなかった。これに対して、NS細胞では、5T2培養系による75PDNの時点、及び10T2培養系による54PDNの時点で、約50%の細胞が2倍体域の染色体数を示し、残りは4倍体域の分布を示した。しかし、その後いずれの培養系でも70%以上の細胞が4倍体域の染色体数に移行した。そこで、67PDNの5T2培養系細胞からコロニー分離を試み、80%が近2倍体を示すクローンを3個分離した。ここで樹立した近2倍体マウスNS細胞は、今後、神経幹細胞における放射線応答研究への応用が期待される。