2026 年 2026 巻 FIN-036 号 p. 01-08
人工市場シミュレーションは,適応的なエージェントの相互作用から生み出される金融市場の価格ダイナミクスを構成論的に理解する有用な枠組みである.人工市場のエージェントモデルにおける構成要素に,学習と投資家特性があるが,両者を統合的にモデル化した場合にどのような集団的ダイナミクスが生じるのかについては,十分に明らかにされていない.本研究では,マルチエージェント強化学習を用いて,異なるリスク回避度,時間割引率,情報アクセスを持つエージェントが,人工市場において相互作用しながら取引戦略を学習する枠組みを提案する.この枠組みでは,投資家特性は,観測および報酬関数の設計を通じて学習過程そのものに組み込まれており,各エージェントは他者の学習行動によって変化する市場環境の中で,自身の嗜好に整合した行動様式を相互作用的に獲得していく.実験の結果,i)投資家特性の異質性の下での学習は,特性に対応した固定的なルールではなく,相互作用を通じて機能的に分化した戦略の形成を促すこと,ii)このように分化したエージェント同士の相互作用が,ファットテール性やボラティリティ・クラスタリングといった現実的な市場ダイナミクスを再現することが示された.本研究は,投資家特性と学習メカニズムを統合的に設計することで,適応的相互作用を通じて市場生態系が自己組織化する人工市場を構築できることを示した,適応的市場仮説を計算論に具体化する枠組みを提示するものである.