1990 年 19 巻 1 号 p. 74-77
IABPのバルーン穿孔部より流入した血液がhard clotを形成し、バルーンカテーテルが抜去不能となるintraaortic balloon entrapment (IBE) の2例を経験した。症例1は左冠動脈前下行枝のPTCA後再狭窄による切迫梗塞例で、IABP挿入5日目にIBEを発症した。直ちに対側大腿動脈よりIABPを挿入し、大腿動脈切開にてバルーンを摘出した。症例2は下壁心筋梗塞後心室中隔穿孔にてIABP挿入5日目にIBEを発症し、バルーン抜去中に、血圧低下から冠動脈スパズムを併発し死亡した。本症は極めて稀であるが、IABP依存症例では致死的ともなりかねない重篤な合併症である。本症の成因は極めて小さなバルーン穿孔部より生ずる少量のhelium leakageを駆動装置が感知できないことにあると考えられた。また、特にIABP依存症例では、IBEを疑えば速やかに対側大腿動脈ないし他の経路からのバルーン挿入を試みるか、別の補助手段を考慮し、その後動脈切開にてバルーン抜去を行う必要があると考えられた。