完全置換型人工心臓(TAH)の制御を困難にしている問題点のひとつは, 制御系の目標値である心拍出量を設定する方法が確立されていないことである. この点, 1/R制御法は, 心拍出量を生体の拍出流量要求を反映した末梢血管抵抗に依存させることで, その決定を循環中枢にまかせることを目指す制御方法であり, 心拍出量を直接的に設定する必要がないという点で有効な方法である. ところが, この方法には試行錯誤的に決定しなければならないパラメータを含むという欠点がある. 本研究では, この欠点を改善するための新たな制御系設計方法を提案する. すなわち, 心拍数と末梢血管抵抗を入力とし, 大動脈圧と心拍出量を出力とするような2入力-2出力系でTAH装着時循環系をモデル化し, この系に対する非干渉化制御系を適応制御理論を用いて設計する. このような設計を行うことにより, 1/R制御アルゴリズムに含まれるパラメータの試行錯誤的な決定問題が回避されるとともに, 生体循環系の個体差や時間的な変化にも自動的に対応する制御系が構成可能であることを, 計算機シミュレーションを用いて示した.