Dacron, Teflonで人工血管を作るという既成観念を離れて, 人体組織に親和性を持つ炭素材料に注目して炭素化繊維人工血管を作る試みを行った. 炭素は生体適合性に富み, 毒性, 発癌性は否定され, また高分子材料にない導電性がある. 血流と人工血管の内腔の関係を荷電の面から考えた場合, 炭素材料の内腔であれば, 生体の電気的平衡を保って血球の付着を抑える効果を持つとされる. 一般の炭素繊維をそのまま編み織りして人工血管を作成するのは, 技術的に不可能であるため, アクリル繊維で編んだ中空管を作り, それに熱を加えて炭素化する方法で炭素化繊維人工血管を作ることを創案した. まず, 焼成する温度と加工時間によるアクリル繊維の物性変化を検討した. つぎにその結果を参考に, 炭化度が高く, かつ適度の物性を保持した人工血管を作る方式を勘案し, 作成した. 作成した炭素化繊維人工血管を, 家兎の皮下に植え込み, 組織適合性について検討した. 初期に通常みられる軽度の炎症のほかには過大な異物反応はなく, 生体適合性に問題はなかった. まだ漏血性に改良の余地があるため, 動脈に植え込んだ結果は得られていないが, これまでの実験結果は炭素性素材が人工血管の材料として有用性があることを示唆している.