抄録
シリコンをはじめとする結晶系材料のスライシング加工にはマルチワイヤソーが用いられている.マルチワイヤソーには遊離砥粒方式と固定砥粒方式が存在するが,高い加工能率を得られることから固定砥粒方式のマルチワイヤソーを用いることが主流となってきている.現在では,この固定砥粒マルチワイヤソーに揺動振動を付加することで,より高硬度な材料のスライシング加工を行う試みが行われている.この揺動振動援用型の固定砥粒マルチワイヤソーの特徴は固定砥粒ワイヤを工具として用い,走行中のワイヤを揺動振動させることで工作物とワイヤの接触面が線接触から点接触に近づくため,高い加工能率が見込まれる点にある.そのため,揺動振動の有無が加工に与える影響は大きいと言えるが,その加工特性は明確には明らかとなっていない.そこで,本研究では揺動振動援用型固定砥粒マルチワイヤソーの加工特性の解明を目的とし,揺動角度を変化させた時の加工面性状に与える影響や加工中の加工溝内部の様子を観察することで加工溝内部で生じる現象が加工に与える影響に関して検討を行った.