日本細菌学雑誌
Online ISSN : 1882-4110
Print ISSN : 0021-4930
ISSN-L : 0021-4930
細菌の運動と感覚応答機構に関する研究
川岸 郁朗
著者情報
ジャーナル フリー

2006 年 61 巻 3 号 p. 293-304

詳細
抄録

大腸菌走化性シグナル伝達系は, 全ての構成タンパク質が同定されており, 生化学的性質や立体構造に関する情報も蓄積していることから, 一つのシステム全体を分子レベルで理解するという課題を追求するうえで秀れたモデル系である。細胞外からの刺激は, 細胞膜の走化性受容体によって受容され, 細胞内シグナル伝達経路を経て, 最終的には鞭毛モーターの回転が制御され, 菌は望ましい方向に移動する。走化性受容体は, 刺激に応じてヒスチジンキナーゼ CheA の活性を制御する酵素共役型受容体であり, 感覚受容体として最もよく解析されているものの一つである。細胞内シグナル伝達経路のうち, CheA と応答調節因子 CheY, CheB は, 細菌, 古細菌, 真菌, 植物などに広く使われている二成分調節系に属している。これらの因子は細胞内でばらばらに存在するのではなく, 走化性受容体・アダプター CheW・キナーゼ CheA の複合体が, クラスターを形成して桿状細胞の極に局在することがわかってきた。このクラスター形成により, シグナルの増幅や一定の刺激に対する適応が起こるのではないかと考えられている。私たちは, 現在までに, 受容体のクラスター形成や下流因子との相互作用に関して, 緑色蛍光タンパク質 (GFP) との融合タンパク質を用いた解析を行っている。また, 部位特異的ジスルフィド架橋を用いた解析により, 受容体ダイマー間相互作用を検出し, それがシグナル伝達に関与することを示唆する知見を得た。本稿では, これらの成果を中心に紹介し, 走化性シグナル伝達系におけるタンパク質の局在と相互作用ネットワークの動態について議論する。

著者関連情報
© 日本細菌学会
次の記事
feedback
Top