Breeding Research
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Research Paper
Screening of cultivars and lines for resistance to rice-ear bugs in rice (Oryza sativa L.)
Kazuhiko SugiuraMitsuru NakamuraMitsuru KatoAkira ItoToshihiro NonoyamaYasunori Nakajima
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2017 Volume 19 Issue 1 Pages 1-7

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摘 要

愛知県農業総合試験場で保存しているイネ503品種・系統から,ほ場検定法,集団検定法,品種別検定法の3種類の方法により,斑点米カメムシ抵抗性品種・系統を選定した.ほ場検定では,野外ほ場で自然発生したカメムシに対する抵抗性品種の選定を行った.集団検定法では,テトロンゴース製の布を蚊帳のように吊るした中でカメムシを増殖させた後,複数のイネ品種を蚊帳内に移し,カメムシに吸汁させて品種間の抵抗性比較を行った.品種別検定法では,1株ごとにテトロンゴース製の布をかぶせ,そこにカメムシを放飼して,品種ごとの抵抗性を判定した.これらの検定には,クモヘリカメムシ(Leptocorisa chinesis)を用いた.ほ場検定及び集団検定により初期選抜を実施して有望な品種・系統を絞り込んだのち,品種別検定により抵抗性を確認した.その結果,「GP242」,「TI-11-8」,「密陽44号」,「CRR-99-95W」が抵抗性を示した.さらにこの4系統を用いて,ミナミアオカメムシ(Nezara viridula)に対する抵抗性を検定した結果,「密陽44号」,「CRR-99-95W」が抵抗性を示した.以上の結果から,「密陽44号」,「CRR-99-95W」はクモヘリカメムシ及びミナミアオカメムシに対する抵抗性品種育成の母本として有望であると考えられた.

緒 言

イネを加害するカメムシは,茎葉や子実を吸汁し被害を与える.子実が吸汁されると玄米に黒または褐色の斑紋が生じ,この玄米を斑点米,加害するカメムシを斑点米カメムシと呼んでいる.日本では斑点米の混入率が0.1%を超えると農産物検査において2等以下に格付けされて,取引価格が低下する.また斑点米は,精米時に砕米が多くなり歩留まりが悪くなる(Tindall et al. 2005).さらに被害が大きくなると不稔粒の発生により減収することから,世界的にも斑点米カメムシによるイネへの被害は大きな問題となっている(Swanson and Newsom 1962, Morita and Dhanapala 1990, Tindall et al. 2005).特に日本では近年,耕作放棄地の増加に伴い斑点米カメムシの増殖源となるイネ科植物が増え,被害が増加している(伊藤 2004b).

斑点米カメムシ対策としては,耕種的防除法,化学的防除法,物理的選別法が挙げられる.耕種的防除法としては,ほ場内及び畦畔を含めた周辺の雑草管理の有効性が報告されている(石川ら 1995山代ら 1996寺本 2003).しかし,畦畔を含めたほ場周辺の雑草管理は生産者の負担が非常に大きい.化学的防除法については殺虫剤による防除時期や効果について,いくつか報告がある(永井・野中 1977田中ら 1991横須賀・諏訪 2000杉村ら 2007).しかし日本ではカメムシに対する延べ殺虫剤散布量が発生面積の4倍にのぼることから(伊藤 2004b),生産コストが増大するだけでなく,環境へ与える負荷も大きい.物理的選別法としては,斑点米を識別し,物理的に除去する機械が開発され普及してきているが(佐竹・福森 2001),導入には多額の資金を必要とし,全ての生産者が導入できるわけではない.こうしたコスト,労力を削減するための有効な手段として,斑点米カメムシ抵抗性品種の育成が望まれている.

茎葉を吸汁し加害するカメムシに対しては,その被害程度に品種間で差があることが報告されている(Anandhi and Pillai 2006, Sumathi et al. 2009).また,子実を吸汁し加害するカメムシのひとつであるカスミカメムシ類に対し,割れ籾の発生しやすい品種で斑点米の発生が多いことが明らかにされている(安田・永田 2005石本 2007).カメムシは種類により口器の強度が異なり,口針を籾に突き通して吸汁できるものとできないものがある(川村 2007).カスミカメムシ類は口器の強度が低いタイプであり,籾の鉤合部や開頴部から吸汁するため(伊藤 2004b),割れ籾の発生が多い品種はカスミカメムシ類の被害を受けやすい.カスミカメムシ類以外の比較的大型のカメムシに対し斑点米の発生を抑制する品種については,タイワンクモヘリカメムシ(Leptocorisa oratorius)に対してイネ品種「IR64」,「PSBRc20」の2品種が耐性を示すケースが報告されている(Jahn et al. 2004).しかし,その他にはほとんど報告がなく十分検討されていない.

日本における斑点米の原因となる主要なカメムシは10数種類報告されている(岩田・葭原 1976林 1977).一般的に,斑点米の1日当たりの発生数は大型のカメムシほど多くなり,最も発生数の多いカメムシとしてミナミアオカメムシ(Nezara viridula)が,それに次ぐものとしてクモヘリカメムシ(Leptocorisa chinesis),ホソハリカメムシ(Cletus punctiger)が知られている(中筋 1973).また,近年のカメムシ被害の特徴として,クモヘリカメムシの被害が東北まで北上していることや(伊藤 2004b),ミナミアオカメムシ分布域が地球温暖化の進展により拡大し,今まで生息していなかった地域に定着し被害を及ぼしていることなどが挙げられる(大野・中村 2007湯川・桐谷 2008小出ら 2010).

そこで本研究では,大型のカメムシで1日当たりの斑点米発生数が多く,近年被害が拡大しているクモヘリカメムシとミナミアオカメムシを対象として,斑点米の発生を抑制する品種・系統を選定することを目的に研究を行った.

材料および方法

本研究は,愛知県農業総合試験場において2008年から2014年に実施した.

1. 斑点米カメムシ抵抗性の検定

斑点米カメムシ抵抗性の品種間差に関する報告は少なく(松崎ら 2001Jahn et al. 2004石本 2007),その検定法も確立されていない.そこで本研究では,以下の3つの検定法により斑点米カメムシ抵抗性を持つ品種・系統の選定を試みた.

1) ほ場検定法

2008年に実施した.検定する品種・系統を当場の野外ほ場(1,000 m2)において無防除で栽培し,自然発生したカメムシの吸汁で発生する斑点米率を調査した.斑点米発生率により達観で1~5の5段階に判定した.判定基準は,斑点米発生率が概ね4%以上を5,1.5~3.9%を4,0.6~1.4%を3,0.1~0.5%を2,0.1%未満を1とした.

2) 集団検定法

2008年から2014年に実施した.図1のようにガラス室内にテトロンゴース布を蚊帳のように吊るした中で,当場の雑草地で採取したカメムシを増殖した.検定する品種・系統は1/10,000 aポット(藤原製作所製)で栽培し,出穂後にポットを蚊帳内に移し5~7日間カメムシに吸汁させた.その際に登熟段階の揃った穂を残し(2008~2011年は3穂,2012~2014年は4穂),他の穂は切除した.処理後,各品種・系統はカメムシを除去するためジノテフラン水和剤を散布したのち,カメムシの被害を受けないよう別のテトロンゴース布の蚊帳内で登熟させた.成熟期に3穂を刈り取り乾燥させた後に脱穀,籾すりし,目視により斑点米発生率を調査した.

図1.

斑点米カメムシの集団検定法.

ガラス室内にテトロンゴース布を蚊帳状に張りカメムシを増殖.検定品種を一定期間入れてカメムシに吸汁させた.

3) 品種別検定法

2012年から2014年に実施した.各品種・系統は1/10,000 aポットで栽培し,出穂20日後に登熟段階の揃った4穂を残し他の穂は切除した.各ポットの穂及び上位葉にテトロンゴース製の袋(幅50 cm,長さ60 cm)をかけ,中に当場の雑草地で採取したカメムシの成虫5頭を7日間放飼した(図2).放飼期間終了後に中のカメムシを取り出し,ジノテフラン水和剤を散布した.その後,カメムシの被害を受けないようにテトロンゴース布を蚊帳状に吊るした中で収穫時まで管理した.成熟後に3穂を刈り取り,集団検定法と同様に斑点米発生率を調査した.なお,放飼期間中に死亡したカメムシはほとんどなく,死亡した場合は速やかに別のカメムシを補充した.また袋の中にカメムシの幼虫の発生は認められなかった.

図2.

斑点米カメムシの品種別検定法.

各ポットの穂及び上位葉にテトロンゴースの袋(50×60 cm)をかけ,カメムシ5頭を7日間放飼して吸汁させた.

2. クモヘリカメムシに対する斑点米カメムシ抵抗性品種・系統の選定

2008年に当場で保存している品種・系統のうち503系統を試験に供試した.その内278系統(付表1)については,ほ場検定法に,228系統(付表2,付表1と一部重複)については集団検定法に供試した.ほ場検定は1系統当たり15個体を供試した.2009年から2014年は前年に斑点米発生率が少なかった品種・系統について集団検定を行った.2009年は58系統,2010年には39系統,2011年は21系統,2012年以降は前年までの結果から,斑点米の発生が少なかった「GP242」,「TI-11-8」,「密陽44号」,「CRR-99-95W」及び比較品種として「コシヒカリ」,「日本晴」,「あいちのかおりSBL」を供試した.

各品種・系統をクモヘリカメムシに吸汁させた時期及び期間は,2008年は出穂10~17日後(平均12日後)から5日間,2009年は出穂14~41日後(平均24日後)から5日間,2010年は出穂15日後から5日間,2011年は出穂20日後から5日間,2012~2014年は出穂20日後から7日間であった.検定に供試したポット数は1品種・系統当たり2008,2009年は1,2010~2014年は2であった.

3. ミナミアオカメムシに対する斑点米カメムシ抵抗性の検定

2014年にはミナミアオカメムシに対して集団検定を行った.検定は,出穂20日後に登熟段階の揃った4穂を残して他の穂を切除し,7日間ミナミアオカメムシに吸汁させる処理を行った後,成熟後に3穂を収穫し,斑点米発生率を目視で調査した.供試品種・系統は,「GP242」,「TI-11-8」,「密陽44号」,「CRR-99-95W」,「日本晴」,「あいちのかおりSBL」であり,検定に供試したポット数は5であった.

結果

1. クモヘリカメムシに対する斑点米カメムシ抵抗性品種・系統の選定

2008年におけるほ場検定の結果を図3に示した.「あいちのかおりSBL」に比べ「GP242」,「TI-11-8」など斑点米の発生の少ない品種・系統が認められた.しかし,多くの品種・系統の斑点米発生率は4%以下と発生が少なく,品種・系統による斑点米発生率の差が小さかった.

図3.

クモヘリカメムシに対するほ場検定(2008).

278系統をほ場で栽培し自然発生したカメムシに吸汁させた.1)斑点米程度は斑点米発生率により区分.5:4%以上,4:3.9–1.5%,3:1.4–0.6%,2:0.5–0.1%,1:0.1%未満.

2008年における集団検定の結果を図4に示した.斑点米発生率は「コシヒカリ」が33%であったのに対し,「密陽44号」は6%,「CRR-99-95W」は8%など斑点米発生率の低い品種・系統が認められた.また,斑点米発生率が100%となるような品種・系統も認められた.

図4.

クモヘリカメムシに対する集団検定(2008).

228系統を出穂10~17日後から5日間クモヘリカメムシに吸汁させた.

2009年には,前年のほ場検定及び集団検定において,斑点米の発生が少なかった58系統と比較品種の集団検定を実施した(図5).前年と同様に斑点米発生が少ない品種・系統が認められた.2010年には2008,2009年の2年間で安定的に斑点米の発生率が低かった38系統と比較品種の集団検定を実施した(図5).「GP242」,「TI-11-8」,「密陽44号」,「CRR-99-95W」は,3年とも安定して斑点米発生率が低かった.

図5.

クモヘリカメムシに対する集団検定(2009,2010).

2009年は58系統を出穂14~41日後から5日間クモヘリカメムシに吸汁させた.2010年は39系統を出穂15日後から5日間クモヘリカメムシに吸汁させた.

2011,2012年は,上記4系統を集団検定法に供試した(図6).比較品種である「日本晴」に比べ,「GP242」,「TI-11-8」,「密陽44号」,「CRR-99-95W」の4系統は有意に斑点米発生率が低かった.

図6.

選抜したクモヘリカメムシ抵抗性品種の集団検定における斑点米発生率(2011,2012).

出穂20日後から2011年は5日間,2012年は7日間クモヘリカメムシに吸汁させた.2011年,2012年ともサンプル数は各2,斑点米発生率は2年の平均値.図中の異なる英文字は,斑点米発生率を逆正弦変換した値を分散分析した後,Tukeyの多重比較において5%水準で有意差があることを示す.エラーバーは標準誤差を示す.

2012~2014年に行った品種別検定における各品種・系統の斑点米発生率を図7に示した.集団検定と同様に「GP242」,「TI-11-8」,「密陽44号」,「CRR-99-95W」の4系統は有意に斑点米発生率が低く,特に「密陽44号」,「CRR-99-95W」はともに3%と「コシヒカリ」34%,「日本晴」23%,「あいちのかおりSBL」29%に比べ低い値を示した.

図7.

選抜したクモヘリカメムシ抵抗性品種の品種別検定における斑点米発生率(2012~2014).

出穂20日後から7日間クモヘリカメムシに吸汁させた.2011年,2012年ともサンプル数は各2,斑点米発生率は2年の平均値.図中の異なる英文字は,斑点米発生率を逆正弦変換した値を分散分析した後,Tukeyの多重比較において1%水準で有意差があることを示す.エラーバーは標準誤差を示す.

2. ミナミアオカメムシに対する集団検定

2014年に行ったミナミアオカメムシの集団検定における斑点米発生率を図8に示した.クモヘリカメムシによる集団検定の結果と同様に「密陽44号」,「CRR-99-95W」は,比較品種に比べ斑点米発生率が低かった.一方「GP242」,「TI-11-8」の斑点米発生率は「日本晴」,「あいちのかおりSBL」と有意差はなく,クモヘリカメムシの集団検定の結果と異なった.

図8.

クモヘリカメムシ抵抗性品種のミナミアオカメムシによる斑点米発生率(集団検定,2014).

出穂20日後から7日間ミナミアオカメムシに吸汁させた.図中の異なる英文字は,斑点米発生率を逆正弦変換した値を分散分析した後,Tukeyの多重比較において5%水準で有意差があることを示す.エラーバーは標準誤差を示す.

考察

1. 斑点米カメムシ抵抗性検定法

斑点米カメムシに対する抵抗性の検定方法に関する報告はほとんどない.Jahn et al.(2004)は,検定する品種をポットで栽培し,30×120 cmの円柱状のグラスファイバーにネットをかぶせ,乳熟期に成虫カメムシを21日間放飼する方法で品種比較を行っている.また,Anandhi and Pillai(2006)は検定品種の株をナイロンメッシュのゲージで覆い,1株当たり5頭ずつ放飼している.カメムシの斑点米被害を調査した報告の多くで,本研究における品種別検定法のように1株ずつナイロンメッシュ網で覆い,カメムシを一定期間放飼する方法が多く用いられている(伊藤 2004a石本 2007竹内 2007).今回,我々はほ場検定法,集団検定法,品種別検定法の3種類の検定法を試みた.ほ場検定法は,省力的に多品種を検定できる利点があるが,カメムシの発生は自然発生に依存しており,斑点米発生程度が少なくなりやすい.また,局所的にカメムシが発生した場合,正確な検定ができない.集団検定法は,ほ場検定に比べ検定に労力はかかるが,斑点米発生率は高く品種間差を検出しやすいと考えられる.しかし,検定するポット数及びカメムシ放飼数により,斑点米数は変動する可能性があり,カメムシの数に応じて検定数を調整する必要がある.品種別検定法は,カメムシの放飼数が一定であることから検定の精度は高いと考えられるが,ほ場検定法,集団検定法に比べ労力がかかる.

このため,多くの品種・系統から斑点米カメムシ抵抗性品種をスクリーニングする際は,初期検定をほ場検定や集団検定で行い,有望な品種・系統を絞り込んだのち,検定精度が高いと考えられる品種別検定法により確認する選抜方法が効率的と考えられる.今回,品種別検定において斑点米の発生が少なかった「GP242」,「TI-11-8」,「密陽44号」,「CRR-99-95W」の4系統に関しては,選定の初年である2008年のほ場検定において「GP242」及び「TI-11-8」の斑点米発生程度が1と少なく(図3),また集団検定では「密陽44号」,「CRR-99-95W」の斑点米発生率がそれぞれ6%,8%と「コシヒカリ」の33%に比べ低かった(図4).2009年の集団検定における斑点米発生率は「GP242」で6%,「TI-11-8」,「密陽44号」及び「CRR-99-95W」ではいずれも3%と「あいちのかおりSBL」の45%に比べ少なかったことから(図5),ほ場検定及び集団検定は斑点米カメムシ抵抗性の初期検定に有効であると考えられた.

また,竹内ら(2004)Lee et al.(1993)は,籾の成熟段階の違いによりカメムシより受ける吸汁被害の程度が異なることを指摘している.今回の研究ではそれらを考慮していないため,今後は成熟段階別に被害程度を明らかにした上で,集団検定法や品種別検定法におけるカメムシの放飼時期の検討が必要である.

一方,イネ品種育成選抜のための病害虫抵抗性検定では,多数の系統を検定する必要があることから,大量かつ簡易な検定法が要求される.縞葉枯病,いもち病,白葉枯病などは,簡易な検定法が確立されていることから(鷲尾ら 1968浅賀 1981八木 1981坂ら 2000),今回行った集団検定法,品種別検定法とも,より簡易な検定法の確立が望まれる.

2. 斑点米カメムシ抵抗性品種・系統の選定

「GP242」,「TI-11-8」,「密陽44号」,「CRR-99-95W」の4品種・系統はクモヘリカメムシに対する集団検定においても品種別検定においても斑点米発生率が安定的に低かった(図67).一方,ミナミアオカメムシに対しては,集団検定で「密陽44号」,「CRR-99-95W」の2系統がクモヘリカメムシと同様に比較品種に比べ斑点米発生率が低かったが,「GP242」,「TI-11-8」は比較品種と有意差が認められなかった(図8).前述のようにカメムシの種類により口器の強度が異なり,籾に口針を突き通して吸汁できるものとできないものがある(川村2007).ミナミアオカメムシは口器の強度が高く,クモヘリカメムシは口器の強度が低いため,「GP242」,「TI-11-8」は口器強度の高いカメムシに対しては抵抗性を発現しない可能性が示唆された.一方,「密陽44号」,「CRR-99-95W」は,口器強度の高いカメムシに対しても抵抗性を発現することから,斑点米カメムシ抵抗性の母本として有望と考えられた.

3. 斑点米カメムシ抵抗性の発現機構

作物の虫害抵抗性の機構について,Painter(1951)Kogan and Ortman(1978)は,抗寄生性,抗生作用及び耐性の3要因を挙げている.それらは害虫の摂食・生息・産卵に対して宿主として好まれない性質,害虫の摂食・生息・繁殖活動を抑制する作用及び害虫による被害を軽減する性質と説明している.中村ら(2014)は「CRR-99-95W」について,口針が玄米まで届きにくく,籾殻が斑点米を低減させる主要因だと推察しているが,抵抗性の発現機構までは明らかにされていない.今後,斑点米カメムシ抵抗性品種を育成していく上で,抵抗性発現機構の解明は極めて重要である.

4. 今後の展開

本研究の結果,「密陽44号」及び「CRR-99-95W」は,カメムシによる斑点米の発生を低減することができる品種・系統と考えられる.しかし,食味をはじめとする様々な不良形質が随伴していることから,実用的な品種とは言えず,品種改良も容易でない.これら系統を利用した斑点米カメムシ抵抗性品種の育成には,まずQTL解析等により,抵抗性遺伝子座を同定し,主要QTL近傍のDNAマーカーを開発することが不可欠である.その上で,今後はmarker assisted selectionによる実用的な斑点米カメムシ抵抗性品種の早急な育成が望まれる.

電子付録

付表1.クモヘリカメムシに対するほ場検定(2008)

付表2.クモヘリカメムシに対する集団検定(2008)

謝辞

本研究の遂行に当たり,愛知県農業総合試験場作物研究部作物研究室の吉田政治氏,伊藤泰人氏をはじめスタッフ各位には多大なご協力を頂いた.同試験場企画普及部福田至朗博士には本論文を推敲して頂いた.また,名古屋大学生命農学研究科田中利治博士にはご助言を頂いた.ここに深く感謝いたします.

引用文献
 
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