Breeding Research
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Research Paper
Evaluation of cooked rice appearance by image analysis
Yoshie MachidaAtsushi HayashiNaoya SagaraTakanari TanabataKatsura TomitaMakoto TanoiAsako Kobayashi
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2017 Volume 19 Issue 3 Pages 103-108

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摘 要

炊飯米の外観のうち,つや及び白さを定量できる画像解析ソフトを開発した.炊飯直後の炊飯米をデジタルカメラで撮影して得た画像について,OpenCVを利用した特徴点抽出を行い,特徴点の数を炊飯米のつや評価値とした.同様に画像中の各ピクセルについてL*a*b*色空間のb*値を求め,その平均値の負の数を炊飯米の白さ評価値とした.これらの画像解析によるつや及び白さ評価値は,11品種・系統を用いた食味官能試験における炊飯米のつや及び白さ評価値と有意な正の相関を示した.また少なくとも900万画素以上の画像に対して解析が可能であった.画像解析によるつやと白さの評価値の間には有意な相関はみられなかったが,食味官能試験では,炊飯米のつやと白さの評価値の間には有意な正の相関がみられた.

緒言

炊飯米の外観は,おいしさの重要な要素である.重宗ら(2007)は,炊飯米の外観と食味総合評価値の間に有意な相関があることを明らかにした.田中ら(2006)は,「アキヒカリ」と「コシヒカリ」の倍加半数体系統群を用いて,炊飯米の外観と粘り評価値の間に有意な相関があることを明らかにした.また,食味官能試験での炊飯米の外観評価は,粘りや硬さの評価とともに,再現性の高い評価項目の一つである(大里ら 1998).

イネ育種マニュアルによると,食味官能試験における炊飯米の外観の評価は,つやの良否,白さ,胚芽の程度,砕米・煮崩れの有無等により判断する,とされている(福井・小林 1996).このうち,胚芽の程度及び砕米・煮崩れの有無は,品種の遺伝的要因の他に乾燥や精米といったポストハーベストの過程に左右されることが多い.一方,炊飯米のつやの良否及び白さについては,遺伝的要素の関与が大きいと言える.これまでに,炊飯米のつやについては,炊飯光沢検定で評価することができ,その広義の遺伝力は0.521であることが明らかにされた(藤巻・櫛淵 1975).炊飯米の白さについては,明瞭な品種間差があることが確認され(Goto et al. 2014小木ら 2014),QTL解析も行われた(Shinada et al. 2015小林ら 2015).

著者らはこれまでに,炊飯米の外観のうち白さについて,画像解析による評価法を開発した(小木ら 2014).本研究では,白さに加えてつやについての画像解析による評価法を開発した.

材料および方法

1. 植物材料及び食味官能試験

供試品種として,「あきさかり」,「アキヒカリ」,「イクヒカリ」,「さがびより」,「つや姫」,「にこまる」,「日本晴」,「ヒノヒカリ」,「森田早生」の9品種及び福井農試の育成系統G29を用いた.これらの品種・系統及び食味官能試験の基準とした「コシヒカリ」を2015及び2016年に福井県農業試験場の水田圃場で栽培した.収穫した玄米を家庭用精米機(SM-500,エムケー精工株式会社,長野)により歩留まり90.0~90.5%に搗精した.

食味官能試験は小木ら(2014)と同様の方法で行い,「コシヒカリ」を0として,炊飯米のつや及び白さを–3~+3の7段階で評価した.パネルは福井農試職員18名であり,合計18回の食味官能試験において,「コシヒカリ」は基準として18回及び試験品種として2回,「日本晴」は7回,「あきさかり」,「さがびより」,「つや姫」,「にこまる」及び「ヒノヒカリ」は各3回,「アキヒカリ」,「イクヒカリ」,G29及び「森田早生」は各2回供試した.

2. 炊飯米画像の取得

食味官能試験に用いた炊飯米の画像を次のように取得した.撮影台は暗幕で囲み外光を遮断した.炊飯終了直後,攪拌せずに,ドライヤーで送風し湯気を飛ばしながら,炊飯釜を撮影台に設置した(図1).撮影にはカメラ(Nikon D800E,株式会社ニコン,東京)及びレンズ(Micro Nikkor 60mm f/2.8G ED,株式会社ニコン,東京)を使用し,光源はLEDマイクロリングライト(VLR-400,株式会社LPL,東京)を使用した.撮影条件は,ホワイトバランス:オート,感度:ISO-100,絞り:f22,露出:–0.7とした.解析用の画像は,JPEG形式の3,615万画素の画像として取得した.

図1.

炊飯米の画像取得.

撮影台を暗幕で囲み外光を遮断し,LEDマイクロリングライトを光源とした.炊飯終了直後,攪拌せずに炊飯釜ごと撮影台に設置し,ドライヤーで送風して湯気を飛ばしながら撮影した.

本研究では3,615万画素の画像を用いたが,異なる画素数の画像でも同様に炊飯米の外観が画像解析により定量できるかどうかを検討するため,Windowsの画像編集ソフト「ペイント」で,撮影した3,615万画素の画像サイズを75%及び50%に縮小した画像を得た.

3. 画像解析

撮影した画像から,炊飯米のつや及び白さを解析するため,特徴点の抽出とピクセルごとのL*a*b*値(清水 2004)を取得するソフトウェアを開発した.

炊飯米のつやに相当する光沢部分は輝度値が周囲よ‍り‍高く,つやの輪郭部分で輝度値の変化が大きくなる.従って,画像中の輝度変化が高くなる箇所を検出し,検‍出‍数をつやに相当する部分の評価値とした.輝度値変‍化‍の大きい領域を検出する方法としてOpenCVの関数‍cvGoodFeaturesToTrackを利用した.CvGoodFeatures ToTrackは輝度値変化の大きいコーナー部分となる箇所を特徴点として検出する.この関数は特徴点を検出する方法として,固有値を利用した方法(以下Eigen)またはHarrisエッジ検出器を利用した方法(以下Harris)を利用でき,開発したプログラムはこれら2つの方法で特徴点を検出した.なお,CvGoodFeaturesToTrackで求める特徴点は,つやに相当する部分だけではなく,米粒の隙間にできる窪みの部分も輝度値の変化が大きいことから検出されてしまう.そこで,解析範囲全体の輝度(L*値)の平均値を求め,特徴点の輝度が平均値以下である場合,検出した特徴点から除外した.

プログラム開発はVisual C++(Visual Studio 2015)及びOpenCV3.1(OpenCV Developers Team 2015)を利用した.画像中の解析対象とする範囲は,1.画像中央を中心として切り出した四辺形部分,または,2.画像中央を基準として等間隔に切り出した9ヵ所の四辺形とした.1.では四辺形の各辺のピクセル数を任意に指定することができ,2.では四辺形の各辺のピクセル数及び画像の中心からの距離を中心から端までの距離に対する比として任意に指定することができる.図2Aに7,360 × 4,912ピクセルの画像に対し,1.で四辺形を4,000 × 4,000ピクセルと指定したときの解析例,図2Bに2.で中心からの比を0.25,四辺形を1,000 × 1,000ピクセルと指定したときの解析例を示す.解析範囲は色分けされており,検出された特徴点は水色の四角形で表されている.

図2.

撮影した炊飯米の画像解析範囲及び解析例(Eigen).

A:画像中央から切り出した4,000 × 4,000ピクセルの四辺形部分,B:画像から等間隔に切り出した9ヵ所の1,000 × 1,000ピクセルの四辺形部分.

開発したソフトウェアは,http://www.kazusa.or.jp/phenotyping/によりフリーソフトウェアとしてダウンロードし利用することが可能である.解析にはTIFF,BMP,及びJPEG形式の画像を使用することができる.

結果

炊飯米のつやの評価値を解析領域内の特徴点の数で表した.供試11品種・系統について,Eigen及びHarrisの両手法による炊飯米のつや評価値の平均値は,官能試験によるつや評価値の平均値との間に1%水準で有意な正の相関がみられた(図3A,B,C,D).解析対象範囲を中央の四辺形部分,または切り出した9ヵ所とした場合,あるいは解析手法をEigenまたはHarrisとした場合のいずれにおいても,それぞれの相関係数に大きな差はなかった.また,良食味品種の代表である「コシヒカリ」と食味の劣る「日本晴」のつやを比較した(表1).両品種のつやに関する画像解析による評価値には,Eigen及びHarrisともに,5%水準で有意な差がみられた.

図3.

供試11品種・系統の食味官能試験におけるつや及び白さ評価値と画像解析における特徴点抽出(A,B:Eigen及びC,D:Harris)によるつや評価値,及び–b*値による白さ評価値との関係.

A,C,E:画像中央の4,000 × 4,000ピクセルの四辺形を解析対象とした.B,D,F:画像から等間隔に切り出した1,000 × 1,000ピクセルの9ヵ所の四辺形を解析対象とし,その平均値を評価値とした.各プロットは品種ごとの平均値で示した.品種名の後ろのカッコ内はサンプル数.*,**:それぞれ5%,1%水準で有意.

表1. 「コシヒカリ」及び「日本晴」の炊飯米のつや及び白さに関する官能試験による評価値と画像解析による評価値
形質
解析手法
 
解析領域
つや 白さ
官能試験 Eigen Harris 官能試験 –b*
中央四角 9ヵ所平均 中央四角 9ヵ所平均 中央四角 9ヵ所平均
コシヒカリ 平均 0.00 3,442 287 798 97 0.00 0.08 0.01
  n = 9 標準偏差 675 29 249 20 0.15 0.15
日本晴 平均 –0.16 2,465 235 495 72 0.40 0.49 0.44
  n = 5 標準偏差 0.17 347 26 230 17 0.16 0.25 0.22
コシヒカリと日本晴の差 * * ** * * ** ** **

中央四角は画像中央の4,000 × 4,000ピクセルの正方形部分.

9ヵ所平均は,画像から等間隔に切り出した9ヵ所の1,000 × 1,000ピクセル部分の平均値.

*,**:それぞれ5%,1%水準で有意.

供試11品種・系統についての–b*値による炊飯米の白さ評価値の平均値と食味官能試験による白さ評価値の平均値との間には,5%水準で有意な正の相関がみられた(図3E,F).ただし,「さがびより」及びG29の–b*値は,食味官能試験による白さ評価値に対して小さく,回帰直線から外れた.また「コシヒカリ」及び「日本晴」の炊飯米の白さに関する画像解析結果では,中央の四辺形部分及び切り出した9ヵ所の平均のいずれについても,1%水準で有意な差がみられた(表1).

本研究では,3,615万画素の画像を解析に用いたが,異なる画素数の画像でも同様に解析できるかどうかを検討した.3,615万画素での画像解析によるつや及び白さ評価値に有意な品種間差がみられた「コシヒカリ」,「イクヒカリ」,「森田早生」の炊飯米を撮影した画像を画像編集ソフトで縮小した画像を解析した.その結果,つや(Harris)及び白さ評価値について縮小したいずれの画素数の画像でも,Tukey-Kramer法による多重比較検定において5%水準で有意な差がみられた(図4).

図4.

解析した画像の画素数とつや及び白さ評価値(Harris及び–b*値).

■:「コシヒカリ」,■:「イクヒカリ」,□:「森田早生」.同一画素数ごとにTukey-Kramer法による多重比較検定を行い,5%水準で有意な差がみられた場合に異なるアルファベットで示した.サンプル数は「コシヒカリ」,「イクヒカリ」,「森田早生」がそれぞれ9,4,3である.

画像解析におけるつや及び白さ評価値を調べたところ,両者の間には有意な相関はみられなかった.図5A,Bに代表例として,画像中央の4,000 × 4,000ピクセルの四辺形を解析対象とした解析結果を示した.白さは–b*値を用い,つやはEigen(図5A)及びHarris(図5B)による評価値とし,供試品種ごとの平均値を示した.「ヒノヒカリ」,「日本晴」,「つや姫」,「イクヒカリ」,「にこまる」,「あきさかり」の–b*値は「コシヒカリ」より大きく,炊飯米が「コシヒカリ」より白いといえるが,つやについては,Eigen及びHarrisの両方で「コシヒカリ」より評価値が明らかに大きかったのはG29のみであった.

図5.

官能試験及び画像解析により評価した炊飯米の白さ及びつやの関係.

A:画像解析(つやはEigen)による評価,B:画像解析(つやはHarris)による評価.解析対象は画像中央の4,000 × 4,000ピクセルの四辺形とした.C:食味官能試験による評価.品種名の後ろのカッコ内はサンプル数.ns:有意でない.**:1%水準で有意.

一方,官能試験におけるつや評価値と白さ評価値を,用いた供試品種ごとの平均値として示した(図5C).その結果,両者の間には1%水準で有意な正の相関がみられた(r = 0.927**).供試品種の中では,「ヒノヒカリ」,「つや姫」,「さがびより」,「イクヒカリ」,「あきさかり」及び「にこまる」の炊飯米は,「コシヒカリ」よりもつやと白さの両方が優れていた.

考察

著者らはこれまでに,シャーレに充填した炊飯米の白さがL*b*a*色空間のうちのb*値で評価できることを示した(小木ら 2014).本研究では,炊飯直後,攪拌前の炊飯米の画像において,画像中の輝度値変化の大きな箇所をOpenCVの関数である固有値を利用した特徴点検出(Eigen)またはHarrisエッジ検出器を利用した特徴点検出(Harris)により検出した特徴点の数を定量することで,炊飯米のつやの良否を評価できることを明らかにした(図3A,B,C,D,表1).また,炊飯米の白さについても,炊飯直後,攪拌前の炊飯米の画像解析において,b*値で評価できることを確認した(図3E,F).以上から,本研究では,おいしさの重要な要素の一つである炊飯米の外観のうち,つや及び白さを同時に定量することが可能な画像解析プログラムを開発することができた.

柳原(2000)は,炊飯米の白さ及びつやを推定する方法として,蒸し調理した米の画像の平均輝度値及び高輝度部分の累積画素数を用いることを提案した.この手法では,ステンレス製密閉容器に25 gの精白米及び白米重量比1.5倍の水を充填し,オートクレーブで加熱することにより蒸し調理したサンプルの画像を解析に用いている.この方法は,選抜初期世代における多数の個体について,その食味特性を間接的に選抜する方法として優れている.しかし,上記のオートクレーブによる蒸し調理で得られた米と,炊飯器で炊飯した米のつやや白さが同等であるかは検証されていない.また画像取得にCCDカメラ,画像処理装置やデータ処理装置として特定の機器やソフトウェアを使用する必要がある.一方,本研究で開発した画像解析手法では,通常の食味官能試験で用いる炊飯米の画像を用いており,多数サンプルの解析には適さないが,実際の炊飯米のつや及び白さを評価できる利点がある.また通常の食味官能試験の手順に炊飯直後の画像を取得するステップが加わるだけで,市販のデジタルカメラ,パソコンで解析が可能である.

解析に用いる画像の解像度を変えて炊飯米のつや及び白さの画像解析を行った.その結果,2,034万画素,904万画素に縮小しても品種間差が安定して検出された.このことから,本解析ソフトを用いる場合,900万画素以上の画像であれば十分に解析が可能であると考えられた(図4).ただし,解析対象の画素数を減少させると,画像の精細さが減少し,つやに相当する光沢部の輪郭部分の鮮明さも少なくなることから,検出する特徴点の数も減少した.

画像解析における炊飯米のつや評価値と白さ評価値との間には,有意な相関はみられなかった(図5A,B).一方,官能試験では両者の間に有意な正の相関がみられた(図5C).これらのことは,実際には炊飯米のつやと白さは連動しており,本研究で開発した画像解析手法がまだ不十分である可能性,あるいは,実際には炊飯米のつやと白さは無関係であるが,ヒトの視覚では炊飯米が白いほどつやがあるように見える,もしくはつやがあるほど白く見えるというように,炊飯米のつやと白さは連動して評価されている可能性の二つが考えられる.今後さらに解析データを蓄積し,炊飯米のつやと白さとの関係について検討していく予定である.

ところで,炊飯米のつやと白さの間に何らかの関係性が存在する理由として,以下の三つの仮説が考えられる.まず,炊飯米の白さとつやがある一つの遺伝子の多面効果により制御されている可能性である.次に,これらの形質を制御する別の遺伝子が連鎖している可能性である.さらには,遺伝的な効果ではなく,炊飯米のつやに関与する遺伝子と白さに関与する遺伝子が同時に選抜された結果に起因する可能性である.

これらの仮説を検証するため,現在,無選抜で経過した組換え近交系統群の炊飯米のつや及び白さに関するQTL解析及び,良食味品種以外の品種も含めた多数品種の炊飯米のつや及び白さの評価を行っている.

謝辞

本研究は農林水産省次世代ゲノム基盤プロジェクト(NGB3001)の支援を受け実施した.

引用文献
 
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