Breeding Research
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Research Paper
Relationships among wintering ability, fructan content, and allelic variation of fructan metabolic enzyme genes in Japanese barley cultivars
Masaru NakataMasako SekiHideyuki AokiTakashi Nagamine
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2021 Volume 23 Issue 1 Pages 28-36

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摘 要

国内の多様なオオムギ計105品種・系統を用いて越冬性とフルクタン含量およびフルクタン代謝酵素遺伝子多型の関係を調べた.越冬性および越冬前のフルクタン含量は寒冷地育成の品種・系統で高く,暖地・温暖地育成の品種・系統で低い傾向があった.5つのフルクタン代謝酵素遺伝子は塩基配列多型のパターンから,それぞれ6から10の遺伝子型に分類された.5つの遺伝子の遺伝子型の組み合わせが同じ品種・系統をグループ化し,越冬性およびフルクタン含量の平均値をグループ間で比較したところ,越冬前の茎葉のフルクタン含量が高いグループほど越冬性が優れており,特に茎部のフルクタン含量と越冬性の相関が高かった.最も耐雪性が優れるグループ群は特徴的な遺伝子型の6-SFT遺伝子を有しており,その遺伝子型は他のグループには見られなかった.また,1-FEHの遺伝子型により越冬性が高いグループ群,中程度のグループ群,低いグループ群に分けられ,供試した二条オオムギの1-FEH遺伝子は全て越冬性が低い遺伝子型であった.そこで,越冬性が最も高いグループの6-SFTの遺伝子型,1-FEHの各遺伝子型を識別するdCAPSマーカーを開発した.

Abstract

Wintering ability is an important trait in barley, particularly in northern Japan. Although fructan is known to be related to wintering ability in wheat and temperate forage grasses, its contribution to wintering ability in barley remains unclear. To clarify the role of fructan with respect to wintering ability in barley, we analyzed the relationships among wintering ability, shoot fructan content, and the allelic variation of five fructan metabolic enzyme genes, 1-FEH, 6-FEH, 1-FFT, 1-SST, and 6-SFT, in 105 Japanese barley cultivars and breeding lines. The cultivars and breeding lines developed in the colder northern region of Japan exhibited a superior wintering ability and greater fructan content accumulated prior to snow cover than those bred in the warmer southern region. In our sequence analyses of the five fructan metabolic enzyme genes, 6 to 10 genotypes were found in each of the genes in the tested barley cultivars and lines. Cultivars and lines with the same combination of fructan metabolic enzyme gene genotypes were grouped, and the average wintering ability and fructan content values of the different groups were compared. A significant correlation was detected between fructan content and wintering ability, specifically, groups with a higher fructan content prior to snow cover, especially in stem tissue, exhibited a superior wintering ability. The group with the highest wintering ability possessed a unique 6-SFT genotype. The cultivars and breeding lines were classified into three groups with a high, medium, and low wintering ability based on the 1-FEH genotypes. We developed derived cleaved amplified polymorphic sequence (dCAPS) markers that identify the 6-SFT and 1-FEH genotypes observed in the group with the highest wintering ability and in the groups with a high, medium, and low wintering ability, respectively.

緒言

冬作物であるオオムギは凍霜害や雪害に遭う可能性が高い.国内六条オオムギの主産地である北陸地域はオオムギ産地としては世界的にも稀な豪雪地域であるため,北陸地域に適したオオムギ品種は豪雪による被害を避けるための高度な越冬性を備える必要がある.寒冷地向けオオムギ品種の開発を行っている農研機構中央農業研究センター北陸研究拠点においても,近年の温暖化による積雪量の減少と根雪期間の短縮のため品種育成過程での越冬性の選抜効果が低下していることに加え,品質や耐病性などに関わる有用遺伝子の導入を狙った温暖地品種との交配により,品種育成過程で本来寒冷地品種が備えていた高い越冬性が失われる可能性が高まっている.そこで,効率的な高度越冬性品種育成のために越冬性に関わるDNAマーカーの開発が必要である.

オオムギ,コムギおよびイネ科牧草では,積雪前の低温馴化の過程で茎葉部に蓄積する非構造性炭水化物が越冬性に重要であり(田村 1986関ら 2014),中でもフルクタンの含有量が越冬性に大きく寄与することが知られている(湯川・渡辺 1995川上・吉田 2006久保田ら 2008Yoshida and Tamura 2011).越冬前に蓄積されたフルクタンは根雪下で分解されてエネルギー源として消費されるだけでなく,融雪後の急速な生長のためにも利用される(吉田ら 2003Yoshida and Tamura 2011).

フルクタンはスクロースにフルクトースが重合した多糖であり,ムギ類のフルクタンはβ(2→1)結合とβ(2→6)結合をもつ枝分かれ構造をしている.フルクタンの合成には3種類の酵素sucrose:sucrose 1-fructosyltransferase(1-SST),sucrose:fructan 6-fructosyltransferase(6-SFT),fructan:fructan 1-fructosyltransferase(1-FFT)がはたらき,分解には2種類の酵素1-fructan exohydrolase(1-FEH)および6-FEHがはたらく(Van den Ende et al. 2004, Yoshida and Tamura 2011).フルクタン代謝酵素の中で最初に遺伝子が単離され塩基配列が解明されたのはオオムギの6-‍SFTであり(Sprenger et al. 1995),その後多くの植物か‍ら様々なフルクタン代謝酵素遺伝子が単離された(Ritsema and Smeekens 2003, Nagaraj et al. 2004, Yoshida and Tamura 2011).遺伝子組換え植物を用いた多くの解析からこれらのフルクタン代謝酵素遺伝子によりフルクタンの構造および含有量が制御されることが明らかにされてきた(Hochstrasser et al. 1998, Cairns 2003, Hisano et al. 2004, Gadegaard et al. 2008, Bie et al. 2012).

コムギでは穀粒フルクタン含有量に最も強く影響するQTLが3つのフルクタン合成酵素遺伝子がクラスター化して座乗している7A染色体短腕末端に見出され(Huynh et al. 2008),これらの遺伝子のDNAマーカー選抜により穀粒フルクタン含量が高い系統を選抜できることが示されている(Huynh et al. 2012).オオムギでもこれら3つの酵素遺伝子が7H染色体短腕末端にクラスター化しており,個々の遺伝子の構造もコムギと酷似していることが明らかにされた(Huynh et al. 2012).これらの知見から,オオムギにおいてもフルクタン合成酵素遺伝子の品種・系統間多型がフルクタン含有量を左右し,越冬性の品種間差に影響していると推測される.長嶺ら(2014)および中田ら(2018b)はそれぞれオオムギ6-SFTおよび1-FFT遺伝子について,越冬性の優れる国内寒冷地品種に共通する塩基配列多型を報告している.しかし,これらの研究では供試品種・系統数が少なく,茎葉フルクタン含量の測定や越冬性の評価もなされていないため,越冬性とフルクタン含有量およびフルクタン代謝酵素遺伝子多型の関係は推測の域を出ていない.

本研究では国内の多様な品種・系統を用いて越冬性,フルクタン含量および5つのフルクタン代謝酵素遺伝子の遺伝子型との関係について包括的な解析を行い,越冬性の向上に最適なフルクタン代謝酵素遺伝子の遺伝子型の組み合わせを明らかにするとともに,越冬性の選抜に利用できるDNAマーカーを開発した.

材料および方法

1. 供試材料とサンプリング

2017年度(播種年度,以下同じ),2018年度の2カ年にわたり近年国内で育成された品種・系統,これまでに普及した主な品種,系譜上の品種・系統,併せて105品種・系統および交配に用いた外国品種10品種を農研機構中央農業研究センター北陸研究拠点内圃場(新潟県上越市,標高10 m,北緯37度6分57秒,東経138度16分22秒)において表1に示す条件で1品種・系統1反復で栽培した.播種様式は75 cm畦幅,畦に対して垂直方向の30 cm試験区長に20粒を条播,試験区間隔は30 cmとした.越冬前後のフルクタン含量を測定するため3~5個体の地上部をサンプリングし,葉身とそれ以外(以後,茎部とする)に分けて80℃で3日間乾燥し,保存した.

表1. 供試材料の栽培条件
試験年度 播種日 播種法 播種粒数 基肥(成分kg/10 a) サンプリング 最大積雪深1)(cm) 根雪期間1)(日)
施用日 N P K 越冬前 越冬後
2017 9月27日 条播 20 9月27日 6.2 2.2 5.3 11月29日 3月14日 115 572)
2018 10月13日 条播 20 10月13日 6.2 2.2 5.3 12月5日 2月25日 68 0

1)農研機構中央農業研究センター北陸研究拠点気象観測データによる.

2)1月10日~3月7日.

2. 越冬性評価

越冬性は融雪直後および約1週間後の茎葉の雪害による茎葉の枯死程度および回復程度の観察により,2(雪害無:越冬性極強)から8(完全に枯死:越冬性極弱)で評価した.雪害程度の指標を付図1に示した.2017年度は融雪直後の3月8日と回復時の3月14日の平均値,2018年度は融雪直後の2月22日の値を用いた.

3. フルクタン含量測定

3~5個体分の乾燥茎葉サンプルをまとめて1サンプルとしてワンダーブレンダーWB-1(大阪ケミカル)を用いて粉砕した.粉砕したサンプルを65℃で一晩再乾燥‍し,‍乾物として測定に用いた.乾燥サンプル25 mgを蓋つき15 mLチューブに秤量し,フルクタン含量測定に供した.フルクタン含量の測定には「Fructan Assay Kit」(K-FRUC,Megazyme社)を用い,キット取扱説明書の測定法(09/18版,Official Methods of Analysis(2000))に従った.フルクタン含量は1反復で測定した.

4. フルクタン代謝酵素遺伝子の塩基配列解析

播種後3週間程度の幼植物3個体からそれぞれ約1 cm2の葉をサンプリングし,中田ら(2018a)と同様にゲノムDNAを抽出し,300 μLのTEに溶解した.1-FFT1-SST6-SFTについては予備試験により多型が多く見られた一部領域を,1-FEHおよび6-FEHについては酵素の保存配列を含む領域をPCRにより増幅した.プライマーおよび解析領域をそれぞれ付表1および付表2に示した.PCR反応液組成は滅菌蒸留水12.2 μL,5×PCR緩衝液4 μL,dNTP mix(各2.5 mM)1.6 μL,フォワードプライマー(10 μM)0.4 μL,リバースプライマー(10 μM)0.4 μL,ゲノムDNA 1.0 μL,PCR酵素(PrimeStar GXL, Takara)0.4 μLとした.PCR反応は最初に98℃ 30秒,続いて98℃ 10秒,65℃ 15秒,68℃ 30秒を35サイクル,最後に68℃ 1分とした.増幅されたDNA断片の塩基配列を依頼分析(タカラ,ワンパスロングリード解析)により解析した.得られた配列情報からMEGA7(http://www.megasoftware.net/)を用いてアライメント解析を行い,indelについては手作業で微調整を行った.塩基配列多型におけるゲノム上の位置情報の解析にはEnsemblPlants(http://plants.ensembl.org/Hordeum_vulgare/Info/Index)の配列データを用いた.

5. dCAPSマーカーの反応条件

dCAPSマーカー用のプライマー配列を付表1に示した.PCR反応液組成は滅菌蒸留水4.1 μL,フォワードプライマー(10 μM)0.2 μL,リバースプライマー(10 μM)0.2 μL,ゲノムDNA 0.5 μL,PCR酵素プレミックス(Quick Taq HS DyeMix, TOYOBO)5.0 μLとした.PCR反応は最‍初に95℃ 2分,続いて95℃ 30秒,60℃ 30秒,68℃ 1分を40サイクル,最後に68℃ 1分とした.PCR反応後,2 μLのPCR反応液に10×反応緩衝液1 μL,制限酵素0.2 μL,滅菌蒸留水6.8 μLを加えて37℃で一晩反応し,3%アガロースゲルで電気泳動した.制限酵素は,6-SFT_8738はSalI(Takara),1-FEH_7902はSacI-HF(New England Biolabs),1-FEH_7981はEcoRV-HF(New England Biolabs)を用い,10×反応緩衝液は制限酵素に添付の10×K buffer(SalI)およびCutSmart(SacI-HFおよびEcoRV-HF)を用いた.

結果

1. 越冬性の品種・系統間差

越冬後の地上部の枯れ方などの生育状態から各品種・系統の越冬性を評価した(付表3).国内品種を育成地により長野県を含む北陸以北(以後,寒冷地とする)と関東以西(以後,温暖地とする)の品種・系統に分けると,寒冷地育成品種・系統では越冬性が高く,温暖地育成品種・系統では越冬性が弱い傾向があった(付図2).2018年度は少雪であったため(付図3),越冬性の品種・系統間差が小さかった.

2. 越冬前後の茎葉のフルクタン含量

葉身と茎部の越冬前後のフルクタン含量を調査した.ほとんどの品種・系統において,葉身よりも茎部のフルクタン含量が高く,越冬前よりも越冬後のフルクタン含量が高かった(付表3).付図2と同様に寒冷地育成と温暖地育成の品種・系統群に分け,茎部のフルクタン含量の品種・系統の5%毎の頻度を調べたところ,寒冷地育成品種・系統では越冬前のフルクタン含量が温暖地育成品種・系統よりも高い傾向があった(図1).2018年度の越冬後のフルクタン含量は寒冷地よりも温暖地品種・系統で高い傾向があったが,2017年度はそのような傾向は見られなかった.

図1.

育成地域と茎部のフルクタン含量の分布割合.

各品種・系統の茎部フルクタン含量を5%毎に区切り,その頻度を年度,育成地域,越冬前後で分けて表した.nは品種・系統数.著しい雪害等により越冬後のフルクタン含量が測定できない品種・系統が存在したため,越冬前後でnが異なる.

3. フルクタン代謝酵素遺伝子群の品種間多型解析

5つのフルクタン代謝酵素遺伝子の一部約800 bpの領域の塩基配列を解析した(付表2).1-FEH6-FEH1-FFT1-SST6-SFT遺伝子はそれぞれ5,9,10,9,10の遺伝子型に分類された(付表4-8).1-FFTおよび1-SST遺伝子は解析領域内のイントロン内の多型が多く,また,エクソン内においても大半が酵素活性とは無関係の液胞輸送配列をコードする領域であったためアミノ酸置換を伴う多型が多かった.一方,6-SFT1-FEH6-FEHで多型が少なかったのは,これらの遺伝子の解析領域が液胞輸送配列を含まず,酵素活性やタンパク質の機能に影響を与えうる領域であったためと考えられる.特に1-FEH遺伝子は最も解析領域内の多型が少なく解析領域内でアミノ酸置換を伴う多型は1カ所のみであった(付表4).1-FFT1-SST6-SFT遺伝子はそれぞれ10,9,10の遺伝子型に分けられるので最大900種類の遺伝子型の組合わせが可能であるが,これらの遺伝子はクラスター化していることから実際の遺伝子型の組合せは13種類だけであり,多様性が低かった(表2,付表6-8).先行研究(長嶺ら 2014中田ら 2018b)における6-SFTおよび1-FFT遺伝子の多型解析による遺伝子型と,本研究の遺伝子型が一部異なるのは,先行研究と本研究では解析領域が異なっていることに由来すると考えられる.

表2. フルクタン代謝酵素遺伝子の遺伝子型とフルクタン含量および越冬性
グループ 遺伝子型 品種・系統数 2017年度 2018年度
フルクタン含量(%) 越冬性
2極強–8極弱
フルクタン含量(%) 越冬性
2極強–8極弱
越冬前 越冬後 越冬前 越冬後
1-FEH 6-FEH 1-FFT 1-SST 6-SFT
1 1 1 1 1 1 9 4.34 12.53 8.08 18.10 4.4 4.41 12.91 11.01 24.80 4.9
2 1 1 5 3 1 2 2.58 6.88 4.92 13.83 4.8 1.68 8.70 5.17 21.90 5.0
3 1 1 5 4 9 1 5.23 14.29 7.08 16.95 4.3 6.38 18.80 1.14 28.77 5.0
4 1 1 6 4 5 1 1.12 2.59 1.55 11.99 7.3 0.31 4.24 4.76 36.20 6.5
5 1 1 8 5 2 1 5.12 11.94 6.72 26.20 5.5 0.46 2.34 6.33 28.70 5.0
6 1 3 1 1 1 9 3.15 11.75 8.67 18.64 4.2 3.83 11.21 7.96 2.43 5.0
7 1 3 5 4 9 3 3.45 11.58 6.10 16.51 3.5 5.29 15.53 8.28 23.88 4.8
8 1 3 8 9 7 1 2.69 10.79 4.30 15.30 5.0 1.21 8.85 3.77 16.45 5.0
9 1 3 10 7 3 5 2.42 8.27 6.08 14.67 4.1 4.81 13.04 8.37 24.18 4.9
10 1 9 5 3 1 1 1.15 2.85 3.52 13.24 7.0 1.39 8.53 9.21 27.40 7.0
11 1 9 5 4 9 2 3.98 1.51 8.87 16.52 4.1 4.87 1.95 11.69 23.30 5.0
12 2 1 4 6 8 1 3.51 11.89 6.21 2.44 6.0 3.55 11.89 5.72 23.61 5.0
13 3 1 1 1 1 5 1.90 7.41 3.54 16.66 6.7 0.99 5.10 4.41 25.44 6.6
14 3 1 3 8 6 9 1.43 4.39 2.46 15.50 7.1 0.58 3.96 2.94 24.59 6.3
15 3 1 4 6 8 5 0.92 2.99 3.12 11.74 6.9 0.65 3.30 4.36 25.45 6.0
16 3 1 5 3 10 1 0.51 2.67 ND1) ND1) 6.0 0.44 4.97 4.19 26.28 5.0
17 3 1 6 4 5 3 1.13 3.96 4.10 15.10 6.8 1.22 4.24 4.86 23.84 6.2
18 3 3 1 1 1 3 0.42 3.10 1.55 6.50 5.7 0.83 6.50 6.40 23.50 5.3
19 3 3 3 8 6 7 1.46 5.30 2.24 12.39 7.0 0.57 4.55 5.12 31.27 6.1
20 3 3 5 3 10 5 2.33 6.16 1.49 11.60 7.4 0.90 6.63 4.33 35.93 5.9
21 3 3 9 2 4 1 0.70 2.69 1.70 9.56 6.3 1.37 6.36 3.46 25.29 5.0
22 3 4 6 4 5 1 0.65 1.40 0.67 2.99 6.5 0.43 3.75 4.44 3.80 7.0
23 3 5 5 3 10 2 0.62 3.29 1.58 6.12 6.8 0.26 1.31 3.87 19.34 5.8
24 3 6 6 4 5 2 0.75 1.88 1.64 7.45 6.3 0.26 0.81 3.72 24.47 5.8
25 4 1 1 1 1 1 3.54 12.94 3.34 8.23 4.0 4.10 17.58 15.70 28.47 5.5
26 4 3 1 1 1 1 0.91 3.63 2.65 8.63 5.0 0.74 6.89 2.90 14.32 5.0
27 5 1 1 1 1 8 2.50 6.80 4.42 13.50 5.1 2.35 8.79 6.77 21.95 5.4
28 5 1 2 1 1 1 1.40 4.85 1.11 4.21 5.5 0.63 6.75 5.16 24.40 5.0
29 5 1 5 3 10 1 1.20 5.16 1.25 6.34 5.5 0.63 4.70 12.70 32.45 4.5
30 5 2 5 3 10 5 1.15 6.90 2.79 11.21 5.8 1.60 8.29 7.28 26.72 5.0
31 5 3 1 1 1 5 1.55 6.15 5.96 13.63 4.7 1.58 7.28 5.22 21.90 5.0
32 5 3 5 3 1 3 2.31 9.43 7.14 15.85 4.7 1.80 8.70 6.43 15.13 5.0
33 5 3 7 5 4 1 0.99 1.98 2.38 7.44 5.8 0.23 0.59 1.32 9.45 5.0
34 5 7 1 1 1 1 0.66 2.49 1.30 5.68 5.8 0.90 6.15 3.94 23.78 5.0
35 5 8 1 1 1 2 1.10 7.84 5.01 16.82 3.8 3.63 12.74 4.58 18.50 4.8
36 5 9 1 1 1 1 3.13 10.58 8.24 11.29 5.3 6.64 18.16 6.46 23.40 4.5
37 5 9 2 1 1 2 1.25 3.85 1.57 5.76 6.4 3.82 1.83 2.76 12.72 5.3
38 5 9 5 3 1 2 0.73 3.10 1.41 6.88 5.6 0.56 4.37 4.30 16.70 5.0
39 5 9 5 3 10 1 1.60 3.35 3.88 7.49 6.0 1.27 3.55 2.48 6.75 5.0

1)出芽不良,低越冬性等により越冬性評価および越冬後のフルクタン含有量分析ができなかった試験区.

1-FEH遺伝子は遺伝子型1,3,5に大きく分類され,それぞれ主に寒冷地育成六条オオムギ,二条オオムギ,渦性の関東育成六条オオムギ・はだか麦から構成された(付表4).

外国品種の各遺伝子には外国品種特異的な遺伝子型も見られたが,多くは国内品種・系統と共通していた.一方,その組合せについて,欧米品種は国内品種・系統と異なっていたが,アジア品種の水原291号および木石港3は国内品種・系統と共通であった(付表3).

4. 越冬性とフルクタン含量および遺伝子型の関係

5つのフルクタン代謝酵素遺伝子の遺伝子型の組合せにより,供試品種・系統を1~39のグループに分類した(表2).その中で,品種・系統数が3以上の組合せについて,遺伝子型と越冬性の平均値を図2に示した.最も越冬性が優れるのは1-FEH6-FEH1-FFT1-SST6-SFTの順に遺伝子型1,3,5,4,9のグループ7で,このグループにはミユキオオムギ,会津6号,東山皮1号が含まれた.また,6-FEHを除く4遺伝子の遺伝子型がグループ7と共通する品種としてグループ3のミノリムギ,グループ11の会津裸,会津裸3号がある(付表3).これらは寒冷地育成の特に越冬性が高い品種・系統である(大崎 1959戸田ら 1969長嶺ら 2014).また,6-SFTはこれらのグループ群のみが特異的に遺伝子型9であった.

図2.

フルクタン代謝酵素遺伝子の遺伝子型と越冬性の関係.

3品種・系統以上を含む遺伝子型の組合せグループ(表2,付表3)の越冬性の平均値.2017年度の越冬性が高いグループ順に左から並べた.遺伝子名を遺伝子型の左に示した.各遺伝子の遺伝子型は表2の通り.nは品種・系統数.

2に越冬性を示したグループについて,越冬性と越冬前の茎葉のフルクタン含量との関係を図3に示した.越冬性と越冬前の茎葉のフルクタン含量に相関が見られ,特に茎部のフルクタン含量と越冬性に高い相関が見られた点はコムギの報告と一致する(湯川・渡辺 1995).1-FEH遺伝子に注目すると,越冬性が高いグループ群は遺伝子型1であり,同じく中程度のグループ群では遺伝子型5,弱いグループ群では遺伝子型3であった(図2,図3).

図3.

越冬前の茎葉のフルクタン含量と越冬性の関係.

2に示した遺伝子型の組合せグループの越冬前の茎葉のフルクタン含量と越冬性の関係を示した.●,■,▲は茎部,〇,□,△は葉のフルクタン含量.●,○は1-FEHが遺伝子型1(表2,付表3-4),■,□は遺伝子型3,▲,△は遺伝子型5を表す.

**,***はそれぞれ1%,0.1%水準で有意であることを示す.

5. dCAPSマーカーの開発

越冬性が最も優れるグループ群のみがもつ6-SFTの遺伝子型9(付表8),および1-FEHの遺伝子型1,3,5(付表4)を識別するためのdCAPSマーカーを開発した(図4).6-SFT_8738マーカーでは215 bpのDNA断片が増幅され,遺伝子型9に特徴的な8738Tであれば切断されず,それ以外の遺伝子型の8738Cの場合SalIにより167 bpと48 bpに切断される.1-FEHについては7902と7981のSNPにそれぞれマーカーを設計した.1-FEH_7902マーカーでは212 bpのDNA断片が増幅され,遺伝子型3の7902AであればSacIにより163 bpと49 bpに切断される.本マーカーはSacIによる切れ残りが多いが,ニシノホシ(遺伝子型3)とカシマムギ(遺伝子型5)のDNAを混合し,標的とするSNPを疑似的にヘテロとした鋳型DNAを用いた場合,切断されたDNAがわずかに見られる程度であったため,遺伝子型3ホモとヘテロの区別が可能であった.1-FEH_7981マーカーでは181 bpのDNA断片が増幅され,遺伝子型5の7981CであればEcoRVにより133 bpと48 bpに切断される.2つの1-FEHマーカーのPCR産物がそれぞれの制限酵素で切断されない場合,遺伝子型1と判定できる.

図4.

6-SFT遺伝子と1-FEH遺伝子のdCAPSマーカー.

6-SFTの塩基番号8738,1-FEHの塩基番号7902および7981のSNPを識別するdCAPSマーカー.泳動図の下に各品種の遺伝子型および塩基,右にDNAサイズマーカーの位置を示した.1-FEH_7902ではニシノホシとカシマムギのDNAを半量ずつ混合した疑似的なヘテロ系統を鋳型DNAとして用い,右端に示した.

考察

オオムギの越冬性には様々な特性が複雑に影響しているが,フルクタン含量は耐雪性だけでなく耐凍性や雪腐病抵抗性にも大きく影響するため(湯川・渡辺 1995Yoshida et al. 1998Hisano et al. 2004Yoshida and Tamura 2011),越冬性研究においては重要な位置を占める.本研究では越冬性を茎葉の枯死および回復程度により,耐雪性や雪腐病抵抗性などの特性を包含して評価し,フルクタン代謝酵素の遺伝子型との関連付けを行った.その結果,コムギ等と同様にオオムギでもフルクタン含量と越冬性との関連を見出し,さらに遺伝子型との関連付けから特徴的な遺伝子型を識別するDNAマーカーを開発した(図4).積雪条件が異なる2カ年の自然条件下での実験のため年次間差が大きいにも関わらず,越冬性とフルクタン含量および遺伝子型の関係について2カ年ともに同様の傾向が見られた(図3)ことは,本研究で得られた知見の信頼度の高さを表している.

コムギでは耐凍性が高い品種と雪腐病抵抗性が高い品種では,可溶性糖類やフルクタンの蓄積特性が異なることが知られている(Yoshida et al. 1998).北陸地域の冬季の気温は氷点下になることが少ないため本研究で供試材料を栽培した圃場での耐凍性の影響は必ずしも考慮する必要はないが,本研究の越冬性評価では雪腐病抵抗性と耐雪性を区別していない.このことが付表3に示した個々の品種・系統レベルでの越冬性とフルクタン含量および遺伝子型の関係で散見された矛盾点につながっている可能性がある.本研究で得られた知見から,越冬性に対するフルクタンの寄与とフルクタン代謝酵素遺伝子の遺伝子型との関連は認められるが,越冬性の優劣が全て説明されるわけではないことも改めて確認された.

フルクタンは根雪下でエネルギー源として消費されるため,一般に越冬前より後において含量の低下が見られる(湯川・渡辺 1995Yoshida et al. 1998).今回のデータでは2カ年ともに越冬前より越冬後フルクタン含量が高い傾向があり,特に2018年度では顕著であった(図1).これには理由が2点考えられる.1点は,越冬前のサンプリングが十分なフルクタン蓄積の後ではなく蓄積途上の時期となった(表1,付図3)ため,越冬前のフルクタン含量が低いことである.もう1点は,2カ年ともに積雪量が少なく,積雪期間が比較的短く,冬期間にも断続的に光合成が可能であったため,蓄積したフルクタンの消費が抑制され,フルクタンの再蓄積も可能であったことである.特に2018年度は積雪が少なく根雪期間が無かったために,越冬後のフルクタン含量が高くなったと考えられる(付図3).実際に,最大積雪深が3~4 m,根雪期間100日を超える新潟県妙高市の圃場で本研究と同品種・系統を同様に栽培したところ,越冬後のフルクタン含量は越冬前よりも著しく低下していた(データ略).

寒冷地品種と比較すると,温暖地品種では越冬前のフルクタン含量は低いが,越冬後のフルクタン含量の増加程度は大きい傾向があった(図1,付表3).越冬後の春季の茎葉の生長にフルクタンが使用されることを考慮すると,温暖地品種に多い春播性品種では越冬前に幼穂形成や茎立ちが始まっていた(データ略)ことから,越冬前の時点で成長のためのフルクタン分解が始まっていた可能性が考えられる.一方,冬期間の光合成によるフルクタンの再蓄積は生育が早い温暖地品種の方が効率的であったと考えられる(図1).これらは温暖地品種と寒冷地品種ではフルクタンの合成や分解に関わる特性が異なることを示唆している.この相違はフルクタン代謝酵素遺伝子の遺伝子型の違いに起因しており,越冬性およびフルクタン含量と関係が見られた1-FEHの遺伝子型が関係している可能性がある.

越冬性が最も高いグループでは越冬前のフルクタン含量が高く,このグループに特徴的な遺伝子型は6-SFTの遺伝子型9であった(図2,表2).これらの品種・系統の1-FFTの遺伝子型5および1-SSTの遺伝子型4は越冬性の低い二条オオムギなどにも共通しているが,1-FFT1-SST6-SFTの遺伝子型が5,4,9の組合せは例外なく越冬性に優れていた(図2,付表3).6-SFTの遺伝子型9に特徴的なSNP(8738T)により201番目のアミノ酸が親水性のスレオニンから疎水性のイソロイシンに置換される(付表8).201番目のスレオニンはオオムギ,コムギなどの6-SFTに保存されている(Nagaraj et al. 2004)ことから,構造上重要なアミノ酸と推測される.アミノ酸多型により各酵素の比活性や基質特異性,至適温度などの特性が異なり,さらには発現制御領域の塩基配列多型により発現パターンも異なる可能性がある.その結果,遺伝子型の組合せによりフルクタンが蓄積する時期,さらには合成されるフルクタンの重合度や枝分かれなどの構造が異なり(川上・吉田 2006),それが越冬性の優劣に影響していると推測される.実際にコムギでは耐雪性の高い品種では高分子フルクタンが多いことが報告されている(湯川・渡辺 1995).今後,本研究で見出した6-SFT遺伝子の遺伝子型の違いが発現パターンや酵素活性そしてフルクタンの構造にどの程度影響するか明らかにすることは,学術的観点から重要であると思われる.一方,品種育成に際しては,図4に示した6-SFT遺伝子のdCAPSマーカーを用いて遺伝子型9を選抜することにより,ゲノム上でクラスター化している1-FFT1-SST6-SFT遺伝子について,越冬性が高い遺伝子型(5,4,9)の組合せを維持した系統を選抜することが可能である.また,1-FEH遺伝子の2つのマーカーを用いることにより越冬性に優れるグループに見られた遺伝子型1をもつ系統を選抜することができる.本研究に供試した二条オオムギの1-FEH遺伝子は全て遺伝子型3であり,越冬性も低かったが(付表3),本マーカーを利用した遺伝子型1の1-FEH遺伝子の選抜により,越冬性が高い二条オオムギの育成につながると期待される.

本研究で注目したフルクタンは水溶性食物繊維であり,オオムギ穀粒にも含まれる健康機能性成分である(Bernstein et al. 2013).コムギにおいて1-FFT1-SST6-SFTがクラスター化したゲノム領域のDNAマーカー選抜により穀粒フルクタン含量が高い系統を選抜できることが示されており(Huynh et al. 2012),また,オオムギ穀粒におけるフルクタン含量と,その中の長鎖フルクタンの割合には相関がある(Nemeth et al. 2014)ことから,フルクタン代謝酵素遺伝子の遺伝子型の組み合わせにより穀粒フルクタン含量が制御されると考えられる.今後,オオムギの高付加価値化には,オオムギ穀粒のフルクタンをはじめとする機能性成分含量を調節する技術の確立が必要であり,本研究で明らかにしたフルクタン代謝酵素遺伝子の塩基配列多型情報の活用が期待される.

電子付録

付表1.プライマーの塩基配列.

付表2.フルクタン代謝酵素遺伝子リストと解析領域.

付表3.供試品種・系統のフルクタン代謝酵素遺伝子の遺伝子型とフルクタン含量および越冬性.

付表4.1-FEH遺伝子の塩基配列多型.

付表5.6-FEH遺伝子の塩基配列多型.

付表6.1-FFT遺伝子の塩基配列多型.

付表7.1-SST遺伝子の塩基配列多型.

付表8.6-SFT遺伝子の塩基配列多型.

付図1.融雪後の生育状態による越冬性の評価チャート.

付図2.育成地域と越冬性の分布.

付図3.上越市における試験年度の気象条件.

謝辞

本研究を遂行するにあたり,農研機構管理本部技術支援部中央技術支援センター北陸業務科技術専門職員には圃場管理業務や収穫物調整業務でご尽力いただいた.中央農業研究センター作物開発研究領域畑作物育種グループ契約職員にはオオムギの栽培,サンプリング,および分析に多大なる貢献をいただいた.中央農業研究センター作物開発研究領域育種素材開発・評価グループには技術的援助をいただいた.供試品種・系統の一部は長野県農業試験場,福岡県農林業総合試験場,農業生物資源ジーンバンクより提供を受けた.ここに感謝の意を表する.

本研究はJSPS科研費JP18K05604の助成を受けて実施した.

引用文献
 
© 2021 Japanese Society of Breeding
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