2021 年 23 巻 1 号 p. 16-27
イネでは,毎年多くの収量関連遺伝子単離の論文が公表されるが,実際の育種に応用されているものは必ずしも多くない.そこで,日本のイネ品種を遺伝的背景とした収量に関連する9の対立遺伝子について,準同質遺伝子系統を収集・作出し,背景品種との比較試験を実施した.粗玄米重の増加が確認されたものは「コシヒカリ」の遺伝的背景にqCTd11Takanari,SD1DGWG,TGW6KasalathとSD1DGWGの2つの対立遺伝子を導入した系統および「あきだわら」の遺伝的背景にDEP1Ballilaを導入した系統であった.これらの対立遺伝子やQTLは,遺伝的背景が日本の品種の場合でも収量を向上させるポテンシャルが期待できる.一方で,「コシヒカリ」の遺伝的背景にqLIA3Takanari,GPSTakanari,GS3Oochikara,GW2BG1およびGN1ATakanariを導入した系統では粗玄米重の増加が確認できなかった.これらの対立遺伝子やQTLは,単独ではその効果が小さかったり,シンク容量が大きくなりすぎてソース能が不十分である等の可能性が示唆された.また,「コシヒカリ」を遺伝的背景とした複数の準同質遺伝子系統を用いた試験では,穂重と穂数の負の相関が検出された.これは,シンク容量の増加が期待されたGW2BG1およびGS3Oochikara(粒大の増加)やGN1ATakanari(粒数の増加)の多収化の効果が確認できなかった主要な要因と推察された.シンク容量の増加だけでは多収化は達成できず,qCTd11Takanariのように単位葉面積あたりの光合成能力の向上に繋がる対立遺伝子や,sd1DGWGやDEP1Ballilaなどのような群落構造を大きく変化させる対立遺伝子を組合せて利用するなど,ソース能の向上と並行して取組む必要があると考察された.