育種学雑誌
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イネ品種IR26の白菜枯病量的抵抗性に関する遺伝母数の推定値と選抜における意義
山田 利昭
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1986 年 36 巻 2 号 p. 112-121

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抄録

国際稲研究所(IRRI)で育成されたIR26は,我が国に現存するすべての自棄枯病菌菌群すなわちI,II,III・IVおよびV群の代表菌系に対して強い量的抵抗性を示す品種である.全南風/IR26の後代F1,F2,F3および交雑親を供試し,各種の推定方法によって抵抗性の遺伝力,表現型相関および遺伝子型相関を推定するとともに,F2世代における抵抗性の個体選抜の効果を調べた. I~Y群菌に対する抵抗性のF2世代における広義の遺伝力,F2個体に対するF3系統平均値の回帰による遺伝力およびF3系統平均値の分散分析による遺伝力はいずれも統計的に有意で高い値を示した.低抗性相互間のF2世代における遺伝子型相関およびF3系統平均値に基づく遺伝子型相関ならびにそれらに対応する表現型相関はいずれも正で高い値を示した. 分散分析の結果,F3系統問および菌糸間に有意差を認めたが,系統と菌糸の交互作用は有意でなかった.このことは,系統間差は非特異的低抗性の,菌糸間差は病原力の差によるものであることを示している. F2世代における抵抗性の個体選抜の効果は高かった.5菌群を代表する5菌糸のうち,いずれか一つの菌糸のみを用いた選抜はその菌糸のみたらず他の4菌糸に対する抵抗性の選抜についても効果を示し,とくに比較的強い病原力を示したIIあるいはIII群の菌糸による選抜は5菌系すべてを用いた選抜に近い効果を示した.病原菌の接種に要する多大の労力を考慮すると,1菌糸のみによる選抜によってこのように十分な効果が得られることは意義が大きいと思われた.病原力は選抜強度を直接左右する要因の一つであるが,選抜に用いる菌糸の病原力は比較的強くかつ安定していることが望ましいと思われた. なお,雑種集団に対する菌糸の病原力は抵抗性親の発病度によってあらかじめ推定可能であることが明らかになった.

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