育種学雑誌
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日本コムギ品種と野生オオムギ Hordeum bulbosum L. との交雑親和性
稲垣 正典
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1986 年 36 巻 4 号 p. 363-370

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抄録
属間交雑によるコムギ半数体作出には母親のコムギと花粉親の野生オオムギ Hordeum bulbosum L. との間の交雑親和性の高低カミ影響する.そこでこの交雑親和性に及ぼす日本コムギ品種間差および H.bulbosum 系統間差を調べ,さらに授粉前に2種の化学物質をコムギの稈に注入した処理の効果についてもみた.母親に供試したコムギ32品種のうち22品種が H.bulbosum と授紛小花の10.4~45.9%の結実率を示し,交雑和合であった.これらの品種は,育成系譜上,在来種間の交雑後代に由来する品種であった.また交雑不和合を示した他の10品種はいずれもその祖先親に欧米の品種を頻繁に含んでいた.花粉親として用いた H.bulbosum 17系統はコムギ品種フクホコムギに対し,4.1~50.0%の結実率を示した.しかしながら,ハルヒカリに対しては1系統のみで極めで低率(0.9%)の結実率を示したにすぎなかった.化学物質の処理についてみると,ε-アミノーn-カプロン酸(EACA)は交雑親和性に何の効果も与えなかった.他方,2,4-ジクロルフェノキシ酢酸(2,4-D)は,フクホコムギの結実を顕著に多くするとともに幼胚を有しない結実も多数生じた。結果として100ppmの2,4-D処理によって幼胚を有する結実率は23.8%から48.6%に倍増した.しかしハルヒカリに対しては十分な効果はなかった.さらに有望な H.bulbosum と2,4-D処理を組合せた交配方法を用いた場合にはフクホコムギでは幼胚を有する結実率が58.2%にまで向上したが,ハルヒカリの結実は得られず,交雑不和合性を打破することができなかった、 以上の結果から,日本品種の多数をしめる交雑和合性のコムギを材料とするとき高頻度でコムギの半数体作出が可能であると考えられる.
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