育種学雑誌
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コムギ穂発芽抵抗性品種種子胚のアプサイシン酸感受性の蛍光染色法による識別
野田 和彦神前 健
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1988 年 38 巻 3 号 p. 301-308

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抄録
穂発芽抵抗性品種“Lancer”、中程度抵抗性品種“ホロシリ”、感受性品種“Lewis”の種子を用いて、ABA感受性の有無と感受性程度の違いをFluorescein dibutyrate(FDB)蛍光染色法によって酵素レベルで明らかにしようとした。“Lancer”、“ホロシリ”、“Lewis”の種子をコントロール(0.005% エタノール)、GA3(10-6M)、ABA(10-5M)、Cycloheximide(5×10-5M)に24、48時間浸し、発芽反応を調査した、“Lancer”、“ホロシリ”はABAに感受性を示したが、“Lewis”は不感受性であった(Fig.1)。一方、コントロールにおいて、いずれの品種も24時間後に発芽したことから、何れの種子も休眠性を失っていることは明らかである。以上の結果は、穂発芽抵抜性品種の種子は休眠性をなくしても、ABA感受性を維持していることが示唆された。また、種子休眠性に関わっている発芽抑制物質やABAに拮抗的に働くGA3によって、いずれの品種でも発芽促進作用がみられなかったことは、休眠性をなくした種子では発芽抑制物質やABAがすでに失われたか、発芽を抑制するほど十分に存在しないことを示唆する。24、48時間浸水後、コムギ種子を100μmの厚さに凍結切片し、FDB法によりlipase-esterase活性変化を観察した結果、時間経過と共にlipase-esterase活性は胚盤付近より次第に胚乳部に広まり、また蛍光光度も増加した(Fig.2)。蛋白合成阻害剤Cycloheximide処理された種子ではlipase-esterase活性がみられたかったことにより、lipase-esteraseは吸水後、胚盤で合成されると思われる。ABA処理された“Lancer”、“ホロシリ”、“Lewis”種子におけるlipase-eterase活性は、“Lancer”で明らかに低く、lipase-esterase合成がABAによって抑制されていることが示唆された。一方、“ホロシリ”、“Lewis”では、明らかな抑制がみられなかった。以上、ABAに対し“Lewis”は、発芽およびlipase-esterase活性ともに感受性でなく、“ホロシリ”では、発芽が感受性であるのに酵素活性では感受性でない。一方、“Lancer”は発芽、酵素活性ともに感受性であることから、穂発芽低抗性遺伝子型をABA感受性とFDB法を組合せることにより選抜することが可能と思われる。
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