児童青年精神医学とその近接領域
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症例研究
自閉スペクトラム症の心理療法におけるコミック会話の有用性
高塚 智行畠中 雄平
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2018 年 59 巻 3 号 p. 318-332

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抄録

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder, ASD)のある人は,「心の理論」の獲得が遅れることが指摘されている。また,「心の理論」を獲得したとしても,聴覚的認知が苦手であることなどから,曖昧な状況や文脈の理解が必要な集団生活で困難をきたしやすいことが知られている。

コミック会話(Comic Strip Conversations, CSC)は,ASDの子どもが得意とする視覚的認知を生かした支援法であり,出来事と,人の会話や感情などを,簡単な絵やシンボル,言葉,色などを用いて視覚化する。しかし,心理面接においてCSCを使用した症例研究報告はこれまでみられていない。

今回我々は,対人関係の問題への心理面接に,継続的にCSCを取り入れたASDの2症例を経験した。よって,本稿では,子どもが描いたCSCの内容,感情表現や他者理解,対人場面での適応等の変化について報告し,ASDの子どもの心理面接におけるCSCの有効性について考察する。

2症例の子ども共,絵を描くことが得意であった。CSCを用いた関わりにより,子どもとセラピストとのコミュニケーションが良好になった。その結果,セラピストは彼らの特性をより理解し,支援の方向性を明確にすることができた。彼らのCSCの内容は,最初は物や情景を中心としたものだったが,人へ注目したものへと変化した。また感情表現が増加した。日常生活では,友達との関わりが増え,対人関係の問題が少なくなった。これらの変化は,CSCがASDの子どもの心理社会的成長の一助となることを示唆している。

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© 2018 一般社団法人 日本児童青年精神医学会
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