抄録
限界掃流力の研究は du Boys 以来多くの研究者たちによつて行われてきたが, その大部分は実験的に限界流速あるいは限界の掃流力と砂粒の平均径との関係を見出し, 実験公式を作ることが目的であつた。これに対し, 理論的に砂粒の移動開始の機構を明らかにしようとする研究は非常に少なく, 近年ではC. M. White (1940) および栗原博士 (1948) のものがあるに過ぎない。White は乱れ係数なる因子によつて乱れの効果を表現し, 栗原博士はこの乱れ係数が粗度に関する Reynolds 数の函数となることを乱流理論を巧みに応用して説明された。しかし栗原博士の理論はかなり難解であるので, 著者は栗原博士とは異なつた取扱い方によつて, 別の限界掃流力に関する理論的解析を試みた。
著者の理論の基礎となつている考え方は, 一つの球状の砂粒に作用する流体抵抗と圧力勾配による抵抗および重力とを用いて平衡条件を作り, これらの抵抗を速度変動を考慮して算出するものであつて, その過程において乱れの混合距離および最小渦の直径などの乱流理論における概念が用いられている。
このような考え方および取扱い方によつて解析した結果, Shields が示したと同様な無次元表示した限界掃流力函数が求められ, さらに遮蔽係数となずけられる一定の実験常数を導入することにより, 実験結果とよく一致する関係が得られた。
実験は正方形一様断面の閉管路を用いて行なつたが, この実験結果と理論曲線とを基礎にして新しい実験公式を作るとともに, 従来の多くの実験公式と比較して批判を行なつた。